【くじら歴史探訪/秋田 前編】地域に浸透する鯨食文化~消費減りつつも高い人気~(日刊水産経済新聞2024年3月28日掲載) | 耳ヨリくじら情報 | くじらタウン

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2024.05.24

【くじら歴史探訪/秋田 前編】地域に浸透する鯨食文化~消費減りつつも高い人気~(日刊水産経済新聞2024年3月28日掲載)

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 「秋田の食文化は、大きく分けると、(1)北部・内陸部(2)西部・日本海沿岸(3)南部・内陸部 の3区分になる」と、蒲澤章子さんは説明する。

蒲澤さん

 南部・内陸部、横手市出身の蒲澤さんは、郷土料理を愛し、インターネット上でレシピを発信。「くじらかやき」もその一つだ。

 同県の鯨食でいちばんに挙げられるのは「くじら貝(か)やき」と呼ばれる料理。塩皮クジラと赤ミズ(ウワバミソウ)やナスなどを入れて煮る。かつてはホタテなどの貝殻に具材を乗せて調理した。鯨肉だけではなく、馬肉や豚肉なども「かやき」になる。

蒲澤さんの「くじらかやき」

 主に夏場に滋養強壮のために食べられてきた「くじらかやき」。塩皮は今では周年販売されているが、夏場は特に多くのスーパーで販売される。
 蒲澤さんのレシピを参考に「くじらかやき」を作り、インターネットでレシピを紹介する人も出てきた。
 核家族化が進み、年々難しくなっている郷土料理の継承。それでも蒲澤さんのように、インターネットの活用など、若き力による新たな取り組みは、鯨食文化の今後について、距離や時間を超える新たなツールとして有効に機能しそうだ。
 秋田市では毎年11月7日の「秋田かやきの日」に合わせて、同月初旬に小・中学校で「かやき」の献立が出される。昨年、一昨年のかやきでは豚肉を使用した。
 また、秋田かやき協議会(事務局・秋田商工会議所まちづくり推進課)では昨年9月、秋田駅前のアゴラ広場・大屋根通りで、「第10回秋田かやき祭り」を実施。比内地鶏やホルモンなどとともに、「くじらかやき」も提供され好評となった。
 鯨食文化が残る南部・横手市。農林部食農推進課の紹介で、横手市生活研究グループ協議会の柿崎克子代表と松井マサ子さんに話を聞いた。

松井さん(左)と柿崎代表

 松井さんは、くじらかやきの作り方について、「塩皮クジラは湯通しして余分な脂質と塩気を抜く。山菜のミズと豆腐などを入れた味噌仕立て。ミズは春先はそのまま、盆の頃からは筋を取り除いてシャキシャキとした状態にする」と話す。

 今では販売されていないが、1960年代には数センチの厚みの干クジラを購入し、風通しのよいところにヒモで下げて保存。「食べる時は一日水に浸して軟らかく戻してから食べやすく切り、新ジャガの掘れる時期(7月)に、インゲンやニンジンと煮物にした」と述べた。

 横手市も東の雪が多い山側と、西側とでは食文化が微妙に異なる。東は塩皮クジラや干クジラ、三陸で獲ったイルカなどを積極的に食べているが、西ではあまり食べなかった。

 イルカは骨付きバラ肉(肋〈ろっ〉骨肉)を「ざる」と言い、雪の上でナタで食べやすい大きさに切断。味噌で炊いて食べた。 

 新型コロナウイルス禍の前、横手市のかまくら祭りでは、一パック500円で味噌で炊いた「イルカのざる」を販売。ニンジンや皮つきゴボウ、コンニャクなどと醤油で炊いた「イルカのいりあげ(煮付)」は少し安い一パック350円で売った。「ゆでこぼしたりと、下ごしらえには手間がかかる」と話す松井さん。

 クジラの塩皮はもちろんのこと、イルカの皮と肉は現在も県内のスーパーで販売されている。クジラやイルカの食文化はしっかりと継承されている。

スーパーで販売されている塩皮クジラ

 県下各地の生活研究グループをまとめてきた協議会は今年60周年を迎えて、参加者の高齢化などを理由に解散が予定されている。
 今後について、「一度バラバラになってしまったら、一から立ち上げるのは大変。県の取り組みは終わっても、私たちは活動を続けていきたい。まだまだ先輩に教えていただくことは多い」と柿崎代表は語った。
 秋田市内で郷土料理が味わえる居酒屋「秋田乃瀧」(齋藤育雄店主)。同店では定番メニューとして、豆腐、塩皮クジラ、ミズナ、ナス、ジュンサイを入れた味噌味の「くじらかやき鍋」を提供する。「ほかから来た人には珍しいと思うが、秋田では昔から食べている」と、男鹿生まれの齋藤店主。価格が安かった頃には「塩皮を湯がき、醤油でおかずとして食べたこともある」といい、愛着のある鯨肉を使った「くじらかやき鍋」を多くの来店客に提供している。

齋藤店主
くじらかやき鍋

 「塩皮クジラの消費はナスの収穫の頃にピークを迎える。このため収穫が早い南部の山形から消費が盛り上がり始め、秋田へと移ってくる」と話すのは、丸水秋田中央水産(株)塩魚・魚卵課の相原賢成氏。

相原氏

 塩皮はツチクジラがほとんどで、かつてはゴンドウやミンクも扱った。
 スーパーなどでは周年販売されているが、現在は消費量も減って通常は棚1列の一パックの幅のみ。ピーク時には量目を増やしたり、ブロックなども並ぶ。「食べているのは比較的高齢の人。50年代ごろから核家族化が進み消費が減少した。現在の消費はかつての5分の1程度。消費は緩やかに減っていくと思う」と話した。
 「刺身用に解凍したニタリの細切りや切り落としが売れている。塩皮は夏が中心」と、鯨肉の流通事情を話したのは、(株)秋田丸魚冷塩部の八柳公輔課長。販売が盛り上がるのは父の日や9月4日のクジラの日などイベントぐらいだ。

八柳課長

 それでも「年に1度あるかないかだが、沿岸定置で混獲された生肉が販売されると、非常に人気があり、よく売れる」と話し、しっかりと地域に根付いている鯨食文化を語った。 (つづく)

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