川崎工科高等学校の生徒が、伝統工芸「クジラべっ甲」の復活を目指して奮闘! | 耳ヨリくじら情報 | くじらタウン

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2024.03.13

川崎工科高等学校の生徒が、伝統工芸「クジラべっ甲」の復活を目指して奮闘!

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肉や油だけでなく、骨やヒゲにいたるまでの全てが人の生活や文化に利用されてきたことから、「捨てるところがない」と言われるクジラ。しかし近年は、可食部以外の部位を使って工芸品を作る職人さんが減少の一途をたどっているのが現実です。日本独自に発展してきた技術を衰退させてしまうのはとても残念なこと。貴重な文化をなんとか次世代につないでいけないものか? という考えはみんなが抱いているものですが、後継者を見つけることは簡単ではありません。そんな中でも、素材としてのクジラの魅力に惹かれる人は後を絶たず、2023年には「横浜STEAM EXPO2023」にて、神奈川県立川崎工科高等学校(以下、川崎工科高等学校)の生徒たちが、クジラのヒゲを使ったアクセサリーを発表しました。授業の一環として作られたわけではなく、有志で集まった生徒たちによる創作とのことですが、生徒たちはクジラのどんなところに魅力を感じたかを取材で伺ってきました。

制作開始からわずか半年で、「横浜STEAM EXPO2023」でアクセサリーを販売

「横浜STEAM EXPO2023」が開催されたのは、2023年10月28日 、29日の2日間。クジラのヒゲを材料としたアクセサリー作りは、その約半年前からスタートしました。きっかけとなったのは、川崎工科高等学校で機械系の授業を担当する多田佑弥先生が、地域の産業と教育の発展に資するさまざまな活動をおこなう一般社団法人スマートニッチ応援団(以下、スマートニッチ応援団)からクジラのヒゲを譲り受けたこと。レーザー加工機などを扱う専門家として、これまでにも多彩な素材を加工してきた多田先生でしたが、クジラのヒゲを手に取ったのは初めてのこと。人工的な素材とは異なる、生き物ならではの扱いにくさも含めてクジラに魅了され、環境化学系の授業を担当する藤井智之先生も誘い入れ、この素材をもとに一緒に作品を作ってくれる生徒を募集することとなります。

クジラのヒゲの加工方法を学ぶため、「日本鯨類研究所」を訪問

また、素材を提供した「スマートニッチ応援団」としては、「産業の発展とともに廃れてしまったロストテクノロジーのひとつにカウントされる、クジラのヒゲ加工技術(=クジラべっ甲の製作技術)にもう一度スポットが当たってほしい」という思いがあったため、「生徒たちの役に立てることがあるならどんなことでも協力します!」と約束。生徒会長を務める、2年生の平島脩渡さん、1年生の東瀬戸友香さんを含めた3人が集まった時点で、生徒が「日本鯨類研究所」の所員にクジラのヒゲの加工方法について学べる機会を設けてくれたといいます。

ヒゲを加工する前の「下ごしらえ」も一筋縄にはいかなかった

レクチャーを受けた後、生徒たちは早速、クジラのヒゲの加工準備を始めましたが、すぐにアクセサリーとしての形をかたどっていく工程に入れるというわけではありません。なぜなら、クジラのヒゲには独特のニオイがあるため、まずはニオイを除去することが先決です。具体的な方法としては、ヒゲを食塩水で煮込み、氷水で冷やした後、乾燥させて、乾燥したらお湯で煮込み、氷水で冷やして乾燥させて……の工程を4回繰り返す必要がありました。もちろん、その作業中はクジラ特有のニオイと向き合う必要があるのは言うまでもありません。しかもその後、80度前後まで温めてやわらかくなったヒゲを伸ばし、平らにのしていく作業も不可欠。この工程を経ることなしには、思い通りに素材を扱うことができないそうで、平島さんは「下ごしらえだけで1か月以上かかりました」と教えてくれました。

分厚くて軽いクジラのヒゲなら、かっこいいアクセサリーに仕上がると思った

しかし、東瀬戸さんが「ロストテクノロジーということもあって、自分たちで復活させたい思いが強くなりました」と明かす通り、どんなに時間がかかってもみんな音を上げることがありません。それどころか、増田帆音(はのん)さん、大沼みねかさんの2人の1年生にも声をかけて仲間を増やし、“伝統工芸復活”という大きな目標に向かってみんなで歩み始めたのです。

勧誘された大沼さんは、「クジラを扱えるなんて貴重な機会だと思ったし、黒くて分厚くて軽い素材だから、見た目のよさと着け心地のよさの両方を兼ね備えたアクセサリーに仕上がると確信できました」と素材としての可能性にも魅了された様子。

増田さんも、「ヒゲについている汚れを丁寧にヤスリで削っていく作業は時間がかかるけど、キレイなアクセサリーに仕上がっていくのが楽しかったです」と笑顔を見せてくれました。

アクセサリーのデザインも生徒たちが担当

今回、制作したものは、イヤリングやネックレスを中心としたシンプルなものですが、クジラのボディをかたどったものもあれば、しっぽ部分をモチーフとしたデザインのものもあるなど、見た目にもユニーク。デザインは主にメンバーのひとりが担当していて、みんなの意見に耳を傾けながら、必要な要素をデザイン画に落とし込んでいったのだといいます。

未来の川崎工科高等学校生にもクジラの魅力を伝えられた

そうしてできあがったアクセサリーを前に、「横浜STEAM EXPO2023」の来場者たちは、「どうやって加工したんですか?」と興味津々。なかには、将来、川崎工科高等学校をはじめとする専門色の強い学校で学びたいと考えている中学生もいたそうで、学校の魅力についてもクジラの魅力についても十分に伝わるよう、丁寧な説明を心がけたといいます。

クジラべっ甲のメガネフレームを作ることが大きな目標

また、今後の展望については一人ひとりに理想がありますが、特に多く挙がった声は、「クジラべっ甲のメガネフレームを作ること」。これはそもそも、生徒たちにクジラの皮を提供してくれたスマートニッチ応援団のみなさんから託された夢だそうですが、実際にクジラべっ甲にチャレンジして、クジラという素材のおもしろさも難しさも知ったからこそ、「絶対に自分たちで完成させたい!」との思いが高まった模様。初めてのアクセサリー作りで来場者からも大きな注目を集めた彼らゆえ、さらなる大きな目標もきっと達成してくれるに違いありません。今後も、くじらタウンでも彼ら・彼女らの活躍をお伝えしていく所存ですが、みなさんもぜひ、今年の11月に開催予定の横浜STEAM EXPO2024の開催も楽しみにお待ちくださいね!

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