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香水やお香が好きな人は、「龍涎香(りゅうぜんこう/別名:アンバーグリス)」の名前を見聞きしたことがあるかもしれません。これらはいずれも、マッコウクジラの腸内で生成された結石で、海中で排泄された後に海岸まで流れ着いたものや、クジラの解体時に見つけられたりしていました。日本で発見された例も多く、沖縄は龍涎香の一大産地です。生成されたばかりの段階では決してよいニオイとはいえないものの、熟成が進むにつれて香しくなることから、古来より、世界中で香料として使用されてきたほか、神経や心臓の調子を整える効果がある漢方薬としても珍重されています。
しかし、18世紀から19世紀にかけて主にアメリカによるマッコウクジラの乱獲のため、海辺で見つかることもほとんどなくなったことから、やがて日本でも龍涎香探しに勤しむ人がいなくなりました。そうした状況を憂えて、「龍涎香の魅力を再び日本に広めたい」と立ち上がったのが、『アンバーグリスジャパン』の設立メンバーたち。そのなかから、代表を務める吉田恭隆さんに、龍涎香の魅力や活動内容について伺います。
――『アンバーグリスジャパン』は龍涎香の魅力を多くの人に知ってもらうことを目的に立ち上げられたそうですが、吉田さんが思う龍涎香の魅力とは?
「私が龍涎香に強く惹かれたきっかけは、気分のすぐれない日が多く心身共に体調が悪くなってしまっていたときに龍涎香の香りに出会い体調が劇的によくなったことです。(※個人の感想です。効能については個人差があります)
もともとは、代替療法の手段として、植物などを加熱せずなるべく自然に近づけた製法での香りの開発を進めていました。私自身が素材本来の成分を抽出した香りを嗅ぐことで、心身の調子が蘇っていく感覚があったからです。化学的なものが入っていない昔からのものには、人間の心と身体を本来の状態に戻す力があるのではと考えました。そして香りの歴史を辿っていくうちに龍涎香に行きつきました。しかし、現在では化学合成されていない純粋な龍涎香はとても手に入りにくかったので、みんなに龍涎香の魅力をじかに感じてもらうためには流通を整えることも必要だと考え、『アンバーグリスジャパン』を立ち上げました。同時に、お香専門店から1グラム1万円もする龍涎香を入手して香りの開発を進めましたが、その香りが周囲にすごく好評だったんです。代替療法をおこなうお医者様からもお墨付きをいただいたし、さらに整体の施術を受ける際に使うと身体の緩みが全然違ったとの報告もあったことで、自分の感覚が正しかったことを確認できました」
――心身がときほぐれてニュートラルな状態に戻っていく香りを、自分の五感で確かめてみたいという人も多いでしょうね
「私たち『アンバーグリスジャパン』としてもたくさんの人に龍涎香の魅力を直に感じてほしいので、ECサイトには、気軽に購入しやすいサンプルサイズの龍涎香もそろえています。また、私たちが龍涎香を提供している理由はもうひとつあって、それはなにかというと、昔のように海岸で龍涎香を探す文化を復活させたい!ということです。つまり、龍涎香かどうかわからないものを拾ったとき、鑑定に利用してほしいので、見分け方の教材も付けたセットも用意しています」
( 龍涎香の見分け方についてのYouTube )
――実際、『アンバーグリスジャパン』設立後に1例目となる発見があったそうですね。
「そうなんです。本物が見つかるまでには、龍涎香らしきものが20件ほど事務局に送られてきましたが、そもそも、みんな本物の龍涎香に触れたことがないから判断できないんですよね。自分で判断する方法としては、『アンバーグリスジャパン』のホームページでも紹介している“ホットワイヤー法”などがあるのですが、本物が見つかった際も、最終的にはプロの調香師にも確認してもらいました。実際のところ、龍涎香はそうそう簡単に見つかるものではありませんが、ひとつでも多くの龍涎香が見つかれば、龍涎香を探す過程で、海岸に打ち上げられた漂着物を収集することができて海をキレイにすることにもつながります。加えて、拾ったものが本物の龍涎香だった場合、物によってはかなりの値段が付くので経済の循環にも貢献することになります。まさに三方よしで、それこそ龍涎香の魅力のひとつでもあると思っています」
――お住いのエリアに海がない人はなかなか龍涎香探しにはトライできませんが、ぜひ一度は、本物の龍涎香の香りを試してみてほしいですね。『アンバーグリスジャパン』のECサイトで販売されている龍涎香キャンディーはぐっとくる人が多そうです!
「龍涎香は漢方薬としても使われていましたが、過去には、健康増進効果を狙ってチョコレートに入れられたこともあったそうです。しかも、龍涎香の香りは“うっとりする”“リラックスできる”と表現されることも多いので、“恋する媚薬”をイメージして作りました。龍涎香の含有量は微量ではありますが、それでも、“食べるとふわっとした気分になる”とおっしゃる方も多いですよ。気軽に龍涎香を試してみたい人には向いているかもしれません」
――龍涎香についてみんなに知ってほしいことはありますか?
「マッコウクジラの頭数が回復してきたというデータもあるので、これから日本でも、龍涎香を拾う文化も使う文化も再び花開いていくはずです。そうなれば、人間の身体にいい影響が及ぼされるだけでなく、ビーチクリーンにも、地元の経済の活性化にもつながっていいことづくしなので、まずはたくさんの人に、日本でも龍涎香を拾える可能性があるということを知ってもらえたらうれしいです」
――最後に、『アンバーグリスジャパン』の今後の抱負を聞かせてください。
「マッコウクジラから生まれた龍涎香は、まだまだわからないことが多い神秘の存在ですが、私たちが拾うことや使うことを忘れずにみんなで愛でていくことで、きっと幸せになっていけると思っています。私たちみんなが健康になったり輝きを取り戻していったりすることで、マッコウクジラへの恩返しとなるかもしれません。私たちが工業化社会のなかで失った、人間本来の感覚を取り戻せるよう作用する龍涎香は、海からの贈り物であって、大自然からの贈り物です。それを受け取ってどう使うかは私たち次第ですが、『アンバーグリスジャパン』としても、現代に合った使い方などを考えていくことで、龍涎香の魅力を発信していきたいです」
■アンバーグリスジャパン
NPOアンバーグリスジャパンは龍涎香文化を日本で復活させようと活動している団体で2017年より活動を開始。
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