耳ヨリくじら情報
日本鯨類研究所が6月26~28日に千葉・幕張メッセで開催する「Japan Drone 2023」に出展し、研究所で開発を進めている、世界的にも珍しい垂直離着陸自律型無人航空機(VTOL―UAV)の水素燃料飛行実験機「飛鳥改五丙二型」を発表する。開発を進める同研究所の吉田崇調査センター準備室長に同機の開発状況など話を聞いた。
―― 無人航空機の開発状況を教えてください。
吉田室長
日本鯨類研究所は鯨類調査の効率化などを目指し、 2019年から無人航空機(UAV)の開発を開始した。21年にはVTOL―UAVの『飛鳥』を開発し、昨年12月に出航した調査船に複数機を搭載して、今年2月までには南極海の調査で運用し、南極海において船舶上から固定翼UAVを離発着させて飛行させるという、世界初の運用に成功している。船上や海上は強風や船体の揺れなど陸上とは異なる飛行状況になるため、安定した飛行を実現するための技術開発を行い、船舶からは風速25ノットまで離発着が可能で、風速40ノットまで水平飛行ができるようになった。航続距離は洋上で104キロの実績を得ている。
この無人航空機を使えば、海氷間など船舶では行きにくい場所も調査できることから、鯨類の資源量推定値の精度向上と効率化が図れる
―― 今回、展示会で初めて水素燃料電池搭載型の飛行実験機を発表されます。
吉田室長
今回の展示会で初披露する水素燃料給電システム搭載の機体はブレークスルー技術として挑戦しているものであり、その第一歩を踏み出せたものであると考えている。飛鳥を含むUAVの多くはリチウムイオンバッテリーを搭載しているが、水素燃料など次世代の技術の投入による飛躍的な性能向上が期待されている。水素燃料を使用することについては、技術的・法的なハードルがあり、実用化には足踏みが続いていた。しかし今回、(株)ネクスティエレクトロニクスとJFEコンテイナー(株)の協力があり、実用化への壁を越えた。実用化までには多くの課題をクリアしなければならないが、両社の全面協力を得て着実に進めていきたい。
水素ガスボンベを搭載した状態で国土交通省が定めるレベル4の飛行を実現し、25年春の実用化を目指している。
――このほかの取り組みを教えてください。
吉田室長
機体開発と合わせて進めているのが人工知能(AI)を活用した画像分析システムの構築。
弊所では、レーザー測距儀を活用した遊泳中のクジラの上空からの体長計測など、画像解析の調査への応用の研究に着手しているが、上空から広範囲で撮影した画像をAIで解析し、鯨種や頭数などを瞬時に自動判別していければ、より効率的で正確な鯨類資源の推定につながる。高練度を要求される熟練鯨類監察員でなくても鯨類の発見・判定ができるようになることを目指していく。
このシステムはUAVでの活用以外にも船舶における鯨種や頭数の判定にも応用できる。データを蓄積し、分析の精度を上げていきたい。
「くじらコラム」は月1回日刊水産経済新聞にて掲載されます。
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