【新クジラ探訪記・高知編】高知県(日刊水産経済新聞2022年1月31日掲載) | 耳ヨリくじら情報 | くじらタウン

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2023.02.06

【新クジラ探訪記・高知編】高知県(日刊水産経済新聞2022年1月31日掲載)

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《高知市場に入荷した宮崎産ミンク》

来年は捕鯨開始から400年

1624年の突き取り式に始まる捕鯨の歴史がある高知。来年は400年を迎える。

 昨年12月中旬の早朝、高知市中央卸売市場のセリ場には宮崎県の定置網で獲れたミンククジラが並んだ。同市場伊野部仁主任は、「水産は最近はセリが少ない」といい、鯨肉も相対販売され残りはわずかだった。卸会社・大熊水産(株)の中村隆一取締役は、「頭部など売り先が持ち帰った。赤肉はキロ約4000円で販売した」と話した。短時間に一頭を売り切る市場。改めて高知の鯨食文化の力強さを感じた。

 観光客が多数訪れる高知市内のひろめ市場や近隣飲食店では、鯨肉を刺身や竜田揚げなどで提供する店舗も多く賑わう。

大物への敬意
すき焼き

《高知のヌタで食べる和え物》

1950年設立の高知鯨(株)(千﨑皓一郎会長)は、高知独特のクジラの食べ方として、醤油と砂糖で煮た「すき焼き」や、葉ニンニクを入れたヌタ(白味噌、ユズ、酢、砂糖)で食べる和え物があると話す。

《伝統食にも詳しい三谷顧問》

 醤油と砂糖で甘辛く煮る、すき焼き。「大みそかに大物になるようにあやかろうと食べたと思う」と話すのは、半世紀にわたり調理人を輩出するRKC調理製菓専門学校の三谷英子常任顧問。「かつては貴重だった砂糖や醤油をたくさん使い、多くの人が食べられるようにした」という。焼くことはなく、濃いめの醤油と砂糖の割り下で煮る。

《すき焼きは醤油と砂糖で甘辛く煮る》

 高知市内の「黒潮料理 酔鯨亭」ですき焼きを食べた。岡孝光取締役店長は、「普段はハリハリ鍋しか提供していない」といい、ささがきゴボウや糸コンニャクなどを用意してくれた。佃煮の一歩手前、弁当にも最適だなと思われる濃厚な味で、ご飯や酒が進む。

土佐古式捕鯨
発祥の室戸

 四国の東南端・室戸岬は西南端・足摺岬とともに太平洋に突き出す。沿岸沿いに北上、南下する鯨類は岬付近を通過する。そのため時折、定置網にも入る。
江戸時代初期に始まる網取り式の土佐古式捕鯨は、和歌山・太地から高知・室戸の津呂、浮津の両鯨組に伝わり隆盛を極めた。近代捕鯨でも山地土佐太郎、泉井守一両氏など、多くの捕鯨人を輩出している。

役場天井から
ミンクの骨

《エントランスの標本(室戸市役所)》

 全国の役所でも恐らくここだけ、室戸市役所はミンククジラの骨格標本をエントランスに展示する。クジラとともに生きる意気込みが伝わる。道の駅「キラメッセ室戸」は海岸沿いに立地。鯨資料館「鯨館」は室戸の捕鯨の歴史を紹介。レストラン「食遊 鯨の郷(いさのごう)」では鯨料理が食べられる。

《鯨館の藤田さん》

 「鯨館」では明治中期、勇壮な捕鯨の様子が描かれた古式捕鯨の「室戸捕鯨絵図」を中心に、人とクジラの物語をデジタル技術で体感できる。藤田美由紀さんが勢子船の実寸のレプリカ、市内で獲られたザトウクジラとマッコウクジラの骨格標本などを紹介してくれた。

《木川さんと鯨御膳》

 隣の「鯨の郷」には、「ここに来たのだからクジラを食べよう」という観光客が多数訪れる。「特有の臭みなどが気にならないようにしている」と同店の木川里佐さん。「鯨御膳」は、半解凍の刺身、特製ポン酢のタタキ、竜田揚げ、サエズリの酢味噌和えのセット。また、若い人が好むニンニク風味で自家製ケチャップ味の「鯨チャップ定食」は、これを食べに来店する人もいる人気だ。フライやユッケ石焼きビビンバなど、郷土の味を新たな形でも提供する。

持続的な利用の
クジラ料理

《「鯨料理は残していく」と話す山村店主と各種鯨料理》

 キンメダイ料理も人気の室戸市。1925年創業の料亭花月もランチではキンメ丼がよく出る。同店の鯨料理は、煮込み、竜田揚げ、尾の身の刺身、サエズリ、ステーキなど。「若い人のイメージに、『室戸=クジラ』はほとんどない」と話す山村邦夫店主。水産系大学で食品を学び、大手メーカーで新商品開発にも携わった。若い人向けには食べやすい竜田揚げ、遠方から来た人には珍しいサエズリなどを提供する。「科学的根拠に基づく持続的な利用が進められているクジラの料理は残していきたい」と語った。

 山村店主から「時々、地元の定置に入ったクジラを販売している」と聞いた鮮魚店・浦戸屋で「鯨の和え物」を買った。葉ニンニクのヌタ和えのサエズリなど、柑橘(かんきつ)類の皮の苦みも美味だった。

食育授業で
鯨肉料理活用

《「素材の味を伝えたい」という塩井事務局長》

 高知県学校給食会は、食育活動の一環で鯨肉を扱う。塩井真由美事務局長は「例年1月の学校給食週間を中心に、食育授業で鯨肉を活用。ケチャップ味のオーロラ煮やノルウェー風などで配食されている。子供たちもケチャップ味は食べやすく、先生たちも懐かしがっていて好評」という。食育授業では、水産ではアユやカツオも使っている。魚離れがいわれる中、「栄養はもちろん、素材がもつおいしさを子供に届けられれば、家庭にも伝わる」と塩井事務局長。鯨食も「食育授業の一つとして大事にしたい。給食週間以外でも広げたい」と話した。

《椎名山見からの展望》

 海岸から段丘が立ち上がる海成段丘の室戸半島は遠方のクジラを発見、漁を指揮する山見に最適。室戸市椎名と飛鳥両集落の分岐にある「椎名山見」は1624年に築かれ、明治末期まで活用された。標高は約50メートル、広さ約20平方メートル。かつてはのろしを上げたたき火跡もあったといい、今も太平洋が一望できる。このほか室戸市には史跡として、金剛頂寺に泉井氏が奉納した捕鯨八千頭供養塔、中道寺(児玉壽顯住職)には鯨の位牌(はい)、浮津八王子宮と津呂王子宮にはそれぞれの組の氏神様がまつられている。

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