【クジラ探訪記⑥】和歌山県・太地町㊦(日刊水産経済新聞2022年1月21日掲載) | 耳ヨリくじら情報 | くじらタウン

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2022.02.18

【クジラ探訪記⑥】和歌山県・太地町㊦(日刊水産経済新聞2022年1月21日掲載)

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▶連載 ⑥
クジラと共に生きる 和洋食、クッキーも人気
「古式捕鯨発祥の地・太地町を歩く ㊦」

▲クジラ中心の町づくりを進める三軒町長

三軒一高太地町長の「クジラの学術研究都市構想」は多くの人を集める。

▲クジラ骨格標本

「いさなの宿」の創作クジラ料理

「観光客はほとんどがクジラ料理を食べる。和食で提供しているクジラ料理は太地で古くから食べられてきている料理。お造りと竜田揚げが一番人気。洋食は創作料理でアレンジしたもの」と話すのは、「いさなの宿 白鯨」で料理長を務める山城弘嗣氏。

▲山城料理長

山城料理長の絶品ランチプレート

洋食メニューのうち鯨肉を使ったランチの「海のジビエパスタランチプレート」(前日までに要予約)。メインのサエズリと赤肉のラザニアは、細かく刻まれた赤肉がトマトソースで調味され、口の中で溶けていく絶品。鯨皮とアサリのクラムチャウダー、赤肉のユッケ、クジラとイルカ2種の生ハムカナッペも添えられ、和食のクジラ料理とは全く趣を異にする料理である。2017年、皮を薄くスライスして素揚げにしたチップスが太地町で開催された鯨フォーラムの懇親会で提供され、これまでにないメニューで多くの人を感動させていたが、それを発案し作ったのも山城料理長だった。独創的でユニークな料理は、愛情あってこそ生み出されると実感。
 フランス料理が専門という山城料理長は、「クジラはあくまでも哺乳類。畜肉のようにスジを見ないと調理できないが、凍っていると見えにくい。魚の感じで調理すると間違う」と和食料理とは違った調理の難しさを話し、長年、肉類を扱ってきた強みを生かして調理にあたっている。

▲海のジビエパスタランチプレート

新しい客層へ広がり期待

最近はバイクや自転車など一人旅で訪れる30歳から40歳代の男性客が多い。お造りをセットにした1万円のコースも人気」ともいう。今はカップルの利用は少ないというが、フレンチの腕を生かした食後のデザートが好評で家族連れにも喜ばれており、今後新しい客層へのクジラ料理の浸透も期待される。山城料理長は「パイ包み焼きなど(自身が専門としている)フレンチでのクジラ料理も提供していきたい」と話す。

「大和煮」の先の「若者向け定番加工品」を

鯨肉加工品・(有)カネヨシ由谷水産の由谷章社長は、町内で鯨肉を加工販売する。「大和煮など定番の加工品が売れている」といい、「鯨ハム」も人気商品の一つ。「販売は土産店が約9割。客層は60歳代以上で鯨肉になじみのある世代。若い人向けにジャーキーも開発販売したが、思ったよりも売れなかった。若い人はクジラ離れしているのかもしれない」と危機感を強め、現在は自分自身も好きだという味噌味の加工品を考えている。「味噌を使うと臭みも抑えられる。苦手な交流サイト(SNS)を使った情報発信も考えていきたい。若い人に好まれるクジラ商品の開発はこれからの課題」と話す。

▲由谷社長

料理レシピを作成「食」を継承

「太地町に伝わるクジラ料理を残し、継承していきたい」と、クジラ料理40種類などを紹介したハードカバーの「あなたが作る太地くじらレシピ」を作成したのは、太地町特産品開発研究会の小出勝彦会長。リーフレットなどとは違う本格的な装丁で、町民に末永く活用してもらおうと考えた。レシピ本は同研究会が全世帯(1300世帯)に配布した。「大変だったのは、昔のクジラ料理を知る老人の多くが亡くなり、話が聞けなくなったこと」(小出会長)。
 元気なお年寄りを探し、今も家庭の味として残っているクジラ料理のレシピを発掘して料理を再現した。また、新しい食べ方を考案、試食を重ね、プロの料理人のアドバイスなども受けて、新たなレシピも完成させた。レシピは同町ホームページにも掲載。いつでも誰でもどこでも見られる。「クジラの苦手な人にも食べやすいレシピを多数作れた。レシピ本が完成して終わりではない。完成したレシピの一部を町の人に試食してもらい、レシピを浸透させていきたい」と言う。
 太地町役場総務課の和田正希くじらの海推進班主査は、「町としては大変ありがたい取り組み。鯨食になじみのない世代が年々増加する中、鯨食文化を継承する活動は、町外の人からの反響も大きい。町の魅力の一つとしてPRしていきたい」と話す。

▲「あなたが作る太地くじらレシピ」

多種類の鯨食品を販売

町内では、漁協直営のスーパーで常時、冷凍・生鮮含めて鯨肉と鯨肉加工品を多数販売している。4年前から商業捕鯨になったが、新型コロナウイルス感染症の影響から鯨肉販売は飲食関係が落ち込み、品質は高くても価格は上がっていない。クジラが漁獲された日には、獲れたてのクジラ肉も並び、多くの町民が購入する。

▲各種鯨肉を販売するスーパー

将来見据え取り組む

貝良文JF太地町漁協専務は、2021年の沿岸小型捕鯨業について「調査捕鯨の期間には漁獲できていたミンククジラも地球温暖化など海水温の影響で北上したのか発見率は落ちた。また、台風などシケの日も多く漁獲に影響した。将来的には、船の大型化のほか、漁場を広げ、漁期を早めるなどの対応も進めていかなければならない。クジラ漁師は今も昔も花形。乗組員は比較的若く、後継者もいる」と話す。
 町ぐるみでクジラとともに生きてきた太地町の町づくりにクジラはこれからも欠かせない。

豆知識

人口3000人弱の小さな町・太地町。古くからクジラをはじめ、海の恵みを大切に生きている。
 子供から高齢者まで楽しめる町全体がクジラのミュージアム。公園の中に住民が生活するイメージの「クジラの学術研究都市」構想は、三軒一高町長が掲げて今年で18年目。日本鯨類研究所太地支所などの世界から学者が集まる「(仮称)国際鯨類施設」が2023年にできると、構想の骨格はほぼ完成する。すでに東京海洋大学など、大学との共同研究も進み、町は世界のクジラ文化と研究の中心になろうとしている。
 太地町の取り組みをビジネスの形でサポートするのが太地町開発公社。三軒町長が代表を務め、学校給食用にクジラを加工、全国1000校以上の学校に提供する。
 「鯨肉を小さい頃から口にしてもらうことで、大人になっても抵抗なく食べてもらえる」というのがコンセプト。子供だけでなく、幅広い世代の人に食べてもらうのも重要で、昨夏は和歌山県庁の食堂でもクジラ料理の定食が提供されたほか、クジラベーコンを振る舞うなど鯨食継承をアピールしている。

▲「(仮称)国際鯨類施設」(イメージ図)

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