耳ヨリくじら情報
11月17日、宮城県石巻市で、『全国 鯨フォーラム2021 石巻』が開催されました。
『全国 鯨フォーラム』は、北海道・網走、千葉県・南房総、和歌山県・太地町、そして宮城県石巻市でおこなわれている捕鯨の継承、そして商業捕鯨の再開を目指して2007年にスタート。第一回目の開催地も石巻であったことから、オープニングで挨拶した石巻市長 齋藤正美さんは、震災を経て再び石巻の地でフォーラムが開催された喜びをあらわにすると同時に、「今後も捕鯨業を維持して水産資源の持続可能な利用を実現する責務を果たしていきたい」と意気込みを語りました。
続いて登壇したのは、水産庁資源管理部 諸貫秀樹参事官。「我が国商業捕鯨の今後の展望~鯨の持続的利用に向けて~」と題した基調講演で、IWC脱退から商業捕鯨再開への経緯を説明した後、これからもクジラを持続的に利用していくためにとるべき対策についての課題を提起することで、出席者の士気を高めました。
メインプログラムは、東京海洋大学名誉教授の加藤秀弘さん(写真上)がコーディネーターを務めたパネルディスカッション「くじらを活かした地域振興」。「捕鯨を守る全国自治体連絡協議会」会長を務める、太地町長の三軒一高さん、木の屋石巻水産代表取締役社長の木村優哉さん、石巻観光大使の本間秋彦さん、中国料理揚子江 代表取締役の今野美穂さん、石巻専修大学経済学部教授の庄子真岐さんがパネリストとして登場して、クジラに対する思いや考え方を共有しあいました。
トップバッターの三軒さん(写真上・左)は、“クジラの恵みで楽に暮らせる”をモットーに、太地町の町作りを進めてきたことを説明。「戦後の食糧難の時代には日本はクジラに命を救われてきた。時代とともにクジラとの関わり方は変化するが、これからも継続的にクジラの恩恵にあやかり、それをみんなに還元していきたい」として、実際に太地町でどのような政策をとっているかを明かしました。具体的な内容は、中学生までは学校給食が無料、高校生までは医療費が無料、高齢者の入浴サービスなど、幅広い世代を支えて暮らしをよくするものばかり。「自治体として強い思いを持って鯨食文化を推進していきたい」と意気込みを新たにしました。
続く木村さん(写真上・真ん中)は、「クジラに限ったことではないけど、多くの食品から選んでもらうのはすごく難しいが、ひとりでも多くの人にクジラのおいしさや栄養価の高さを知ってもらえるよう、“食べる動機付け”について考えていきたい」とコメントしました。また、ひとりでも多くの人にクジラの魅力を知ってもらうためにはどうすればいいかというと、「宣伝活動しかない」と断言。「数年前の“サバ缶ブーム”では、サバ缶がいかに身体がよいかということに注目が集まったが、クジラはそれ以上にうたい文句がある食品なので、自社でも宣伝にますます力を入れていきたい」としました。
石巻観光大使であると同時にフリー・パーソナリティでもある本間さん(写真上・真ん中)は、軽快な口調で石巻の今昔について説明。「自分たちが小中学校時代を過ごした昭和40年代から50年代の鮎川は、捕鯨の全盛期で街は活気にあふれていた。その後、低迷した時代を経て、おしかホエールランドも再び賑わいをみせている。コロナが落ち着いたら新しくなったホエールランドでくじら祭りを開催したいし、活気創出のためにもクジラは非常に重要な役割を果たしてくれると信じている」と熱い思いを言葉にしました。
また、有限会社『揚子江』代表取締役社長の今野さん(写真上・真ん中)は、店長を務める中国料理店『揚子江』でクジラ料理を供しているそうで、その理由を「水揚げされたクジラの肉があたたかいうちに調理できるのは、捕鯨の街である石巻ならでは。しかも、鯨肉はアレルギー症状を起こしにくいうえに栄養豊富。今野さん自身が、体力が落ちていた人がクジラを食べて元気になった実例を目の当たりにしてきたことからも、「たくさんの人にクジラで元気になってほしいと考えるようになった」と明かしました。
もうひとりの女性パネリストである庄子さん(写真上・右)は、石巻専修大学経営学部教授として、若い世代と一緒に石巻の魅力発信について日々考えているそうで、「他の都市にはないクジラというコンテンツを有していることは石巻にとって大きな財産。クジラをPRすることで差別化できるし、おいしいだけじゃなく栄養面においても文句なしのクジラを食べて健康な人が増えれば、街の魅力ももっと向上する」と力強くアピールしました。
パネリスト5人の話に耳を傾けていた加藤さんは、「食品として魅力的」「地域振興や街づくりに役立つ」などのキーワードをいくつかピックアップ。さらに、壇上から、客席にいる鯨業界関係者にも意見を求めると、「クジラをよりおいしく食べるための工夫は日々進化している。最近では、一か月熟成も試してみたけど結構おいしく食べられた」などの声が上がったほか、「鮎川で昔から食べられている家庭料理としてのクジラ料理ももっと多くの人に知ってほしい」(本間)「今はSNSの時代だから、珍しいもの、高くてもおいしいものも、リアルタイムで発信すればもっと広まるはず」(今野)など、おのおのが意見を出し合うことで、会場が一体感に包まれていきました。
また、加藤さんは三軒町長に「太地を見習うためにも、今後もフォーラムを開催していかなくてはですね」と声をかけられていましたが、太地町の例に限らず画期的・魅力的な実例を見聞きすることで、その前例を活かそうと工夫する自治体や企業、レストランなどが増えてくれば、クジラ業界の未来はもっともっと明るくなりそうですね。