「クジラ料理」ときくとどんな料理が思い浮かびますか？　多くの人は、子どものころ給食で食べた竜田揚げやクジラベーコン、クジラの大和煮などを思い出すのではないでしょうか？　しかし最近では、鯨肉の可能性を広げようと、新しいメニュー考案に力を入れる料理人も増えています。しかも、料理の種類はジャンルレス。和食はもちろん、イタリアンやフレンチの手法を活かしたメニューを提供している店も人気です。そのなかでもとびきりユニークかつクジラのおいしさを堪能できる料理を食べてみたいなら、ぜひ訪れてほしいのが東京・新宿の『はつもみぢ』。グルメサイトで同店のジャンルをチェックすると、「インド料理」「魚介料理・海鮮料理」の文字が並んでいます。一体どういうことなのでしょうか？　さっそく取材してきました。

迎えてくださったのは、新宿の地で50年間、飲食業を経営してきた吉村弘造さん。現在の店舗がオープンしたのは2007年ですが、それよりずっと前から、おいしい料理でたくさんのお客さんを笑顔にしてきました。しかし、クジラを扱うようになったのは途中から。もともとはフグ料理専門店を営んでいたため、「フグが旬の冬以外はウナギを出そう」と試みたもののうまくいかず仕舞い。そんなとき、「クジラの仕入れをサポートするよ」と知人が声をかけてくれたことをきっかけに、クジラ料理を提供していくことに決めたのでした。

そこで、まずはクジラの刺身や竜田揚げ、ハリハリ鍋などの和食メニューからスタート。そこから徐々に、「クジラ特有のニオイを消すにはどうすればいいか？」と試行錯誤しながら、メニューを増やしていきました。

そのなかで辿り着いたひとつの答えが、香辛料たっぷりのインドカレーに仕立てること。臭み消しとおいしさの両方を追求した結果、唯一無二の「くじらカレー」が誕生しました。本格インドカレーなのに日本人の舌に合う深いうまみが特徴のカレーは、やわらかく仕上げたクジラの竜田揚げと相性抜群。キッチンで腕を振るっているのは、本場インドから来日したシェフたちですが、レシピや作り方を考案したのはすべて吉村さんなんだとか。

だけど、おいしいナンと一緒に食べることができるのはシェフたちのおかげ。大きさも弾力も味わいも圧巻のナンをお客さんに褒めてもらえることは、吉村さんにとってもうれしいことなのだと明かしてくれました。

もうひとつの注目メニューは、ご飯、お味噌汁、漬物、小鉢がセットになった「タンドリーくじら定食」。「タンドリーチキン」のチキンの代わりにクジラを使うというアイディアにも驚かされますが、口に運ぶと二度目のビックリ。ほどよくスパイシーに仕上げられたクジラは、ふんわり食感でやさしい味わい。「クジラってこんなにクセがなくて食べやすいものなの？」と目を丸くする人も多いに違いありません。

実際、クジラを食べたことがない人のなかには、「クセがあって食べにくそう」「固そう」というイメージを抱いている人もいるかもしれませんが、きちんと臭み抜きをして、鯨肉に適した調理法で料理すれば、わたしたちにとって身近な食材となり得るのです。

吉村さん自身、クジラはそうした可能性を秘めているとの想いがあるから、「クジラっておいしい」と思ってもらえる料理を考案し続けているのでしょう。インタビュー中にも、「新しいレシピを思いついたから近々出前メニューに加える予定なんです」と教えてくれました。

しかし、クジラ料理を出す飲食店としての葛藤もあります。「クジラを若い人にも食べてもらうためには、もっと価格を下げることが必要なのに、高価になる一方だよね」。吉村さんがこぼす通り、近年、クジラの価格は上昇傾向にあります。クジラが大好きで、たくさんの人にクジラを食べてもらいたいという飲食店関係者が発信し続けても、消費者にとっては値段がネックとなることはあるでしょう。そうした状況にも目を向けながら、クジラ業界一丸となって、おいしいクジラをたくさんの人に食べてもらうための策を考えられるといいですね。

ちなみに、今回ご紹介した2品はいずれもお手頃価格。くじらカレーは680円、タンドリーくじら定食は880円でいただけるので、ぜひ新宿を通る際にはお試しあれ。また、そのほかにもバラエティ豊かなクジラメニューがそろっているので、通うたびに新しいメニューを試してみるのも楽しいはず♪

■はつもみぢ
住所：東京都新宿区歌舞伎町 2-44-1 東京都健康プラザ ハイジアB1
最寄り駅：JR 新宿駅東口 徒歩 5 分
営業時間：HPより最新情報をご確認ください。