聞く
「鯨(ゲイ)を食って芸を磨け!」のセリフとともに愛されている浅草の人気店『捕鯨船』。半世紀近い歴史のなかで、同店のクジラ料理を食べて研鑽(※1)を積んできた芸人は枚挙(※2)にいとまがありませんが、これだけ長く愛され続けていることは料理もおいしいことを証明しています。同店を訪れたらまず食べるべきクジラメニューから、芸を磨いて成功したい若者におすすめのメニューまで紹介します。
※ 研鑽(けんさん)…(技術など)磨き深めること
※ 枚挙(まいきょ)…1人1人数えあげること
皮と赤肉のミックス(刺身)は名物の牛の煮込みと同じタイミングで注文が粋
――『捕鯨船』を訪れたらまず食べてほしいクジラメニューを教えてください。
河野「うちの看板メニューの一つは俺が仕込んでる牛の煮込みなんだけど、煮込み(680円)と一緒に刺身を頼むお客さんは多いね。なんでかっていうと、凍った状態で出すから、やわらかくなってから食べるのが好きな人は、煮込みを食べながらちょうどいい塩梅になるのを待てるから。刺身は、赤肉(1,400円)だけでもおいしいけど、皮と赤肉のミックス(1,600円)だと、皮と赤肉を一緒に口に入れるとうまいから試してみてほしいね」
商品化されたほど人気のチューハイは一度は飲んでほしい
――お酒が進みそうです!
河野「お酒は冷酒もワインもノンアルもあるけど、うちにきたらぜひ飲んでみてほしいのが元祖チューハイ(500円)ね。浅草で最初に梅シロップのチューハイをはじめたからこの名前なんだけど、去年、缶チューハイになってセブンイレブンでも売り出されたんだよ」
クジラは素材がよければそのままでもおいしいし、アレンジしても楽しいと思う
――鯨種は何ですか?
河野「今は近海で捕れたニタリとイワシだね。店を始めた当時は南氷洋のミンクを使ってて、これが最高だと思ってたから、南氷洋に行かなくなったときにはもう店を辞めようかと考えたんだけど、食べて見たらニタリもイワシもうまいんだよね。でも、今はクジラが高すぎるから、いいクジラをそのまま出せる店は少ないよね。うちは開店当時から、素材のうまさをそのまま楽しんでもらいたくて刺身を提供し続けてるんだけど、カルパッチョにしても絶対おいしいから、若い人たちはいろいろアレンジしてみたらいいと思うよ」
クジラ×浅草の味は『捕鯨船』ならでは
――若い方におすすめのメニューもあるとか。
河野「くじらのやきそば(800円)ね。安くてボリュームがあるから、まだまだ芸を磨いていく段階の若い子にお腹いっぱい食べてほしい。浅草のまちの人間はとにかく甘辛を好むんだけど、このやきそばもまさに浅草の味だよ。赤身もキャベツもこの味付けに合うんだよ。」
料理はケチったらおいしくない
――鯨肉ってやきそばにも合うんですね! キャベツもいいアクセントです。
河野「キャベツが好きなら、くじらの野菜いため(1,600円)も食べてほしいね。キャベツはね、細すぎず太すぎずの幅に切るのが一番、甘みも感じられてうまいんだよ。クジラとピーマン、玉ねぎを炒めたうえにたっぷりかけて、そのうえからケチャップをかけるのが味の決め手だね。料理はね、ケチじゃダメなの。ケチったらおいしくないから、キャベツもこのくらいたっぷり載せないと。今はもう、クジラ料理は息子に任せてるけど、息子もケチじゃないね」
うちの竜田揚げは宇宙一! 秘訣は「注文されてから作ること」
――鯨肉もたっぷり入っていて食べ応え抜群です!
河野「赤肉を使った定番料理と言えば竜田揚げだけど、うちの竜田揚げ(1,400円)は宇宙一だから。秘訣はね、注文されてから作ること! 作り置きは絶対にダメ! 一回一回作ると油が倍必要になるけど、そこをケチるとおいしくなくなるんだよ。本当に、料理はケチっちゃダメなんだから」
ニンニクが効いた鯨肉があればキャベツが進む
――竜田揚げに添えられたキャベツもてんこ盛りですもんね。
河野「キャベツと一緒に食べると鯨肉がさらにおいしくなるからね。テキ(1,400円)も、あったかいうちにキャベツにまぶして食べるとうまいんだよ。ニンニク醤油はキャベツとも相性がいいから、ぜひ試してみてほしいね」
クジラ業界も時代とともに進化していくことが大切
――浅草の味はクジラと相性がいいこと、料理はケチっちゃダメだということがよくわかりました。
河野「クジラを食べたことがない人には、“まずは『捕鯨船』に来い! 来ればクジラのもおいしさが一発でわかるから”って伝えたいね。クジラの食文化に関しては、よく“日本人の原点”なんて言い回しが使われるけど、そうは言っても時代は変わるし、今やクジラなしでも生きていけるんだから、いつまでもそういう考えじゃいけないよね。時代に合わせて進化して、新しいものを取り入れていくことはすごく大事。浅草は温故知新のまちだから、そういう考え方とはすごく相性がいいんだよ。古いものを大切にしたければ、新しいものを取り入れていかなきゃ。それによって古いもののよさが際立つんだから、クジラ業界も積極的に新しいものを取り入れてほしいなと思う」
業界で一丸となってクジラの食文化を守っていきたい
――業界全体で進化していくことも大切ですね。
河野「『捕鯨船』をはじめて間もないころ、捕鯨会社である共同船舶(株)が大阪の『徳家』(現在は閉店)、『元祖くじら屋』(渋谷)、樽一(新宿)とうちの4店舗を集めて勉強会を開いて、“クジラの食文化を守るためにがんばってほしい”って言われたことがあるの。でも、“がんばってくれなんて偉そうなこというけど、あんたうちの店に食べにきたことあるのか?”と聞いたら答えはNO! でもね、これをきっかけに担当者がちゃんと食べにきてくれて、以降、一生懸命日本の鯨食文化を守るためにがんばってくれたから、それ以来仲良くなったし、今でも応援してるんだよ。ここしばらくは会ってないんだけどね。これからも一緒にがんばっていきたいんだから、“たまには顔見せに来いよバカヤロー!”って言いたいね俺は(笑)」
今回のインタビューの最後にはお店の前で浅草の町に向かって「バカヤロー!」と叫んでいただけました。この言葉をきくとみんな元気になってしまう魔法の言葉です!取材中も河野さんがお店の外にでると人が集まってくる、そんな浅草のパワースポット「捕鯨舩」で鯨(ゲイ)を食って芸を磨いてクジラ料理を楽しんでみてはいかがでしょうか。
■捕鯨船
住所:〒111-0032 東京都台東区浅草2-4-3
電話:03-3844-9114
営業時間:
月~金16:00~22:00土日祝 15:00~21:00
定休日:日曜日、祝日
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