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ロンドンオリンピックでの銀メダル、世界柔道選手権での金メダルをはじめ、数々の華々しい経歴を積み上げてきた柔道家・杉本美香さん。現役引退後も、コマツ女子柔道部で監督を務めるなど、指導者としても第一線で活躍されてきましたが、2023年2月には出産したことを報告されており、現在はお子さんファーストで生活していらっしゃいます。幸せオーラいっぱいで待ち合わせ場所に登場した杉本さんに、今回、召し上がっていただくのは、『ウォルプタス 東京駅グランルーフ店』シェフ謹製の春の行楽弁当。なんとほぼすべての料理に鯨肉が使われています。クジラを食べるのは初めてという杉本さんから、果たしてどんな感想がきけるのでしょうか? 日本鯨類研究所の早武真理子さんによる、食としてのクジラについての解説を交えながらお届けします。
クジラの栄養価の高さはアスリートにとって魅力的
早武「杉本さんはクジラを食べるのは初めてだそうですね」
杉本「そうなんです。味も栄養価も知らないし、食べようと思ったこともなかったです」
早武「クジラの肉は、牛肉や豚肉と比べて低カロリーで、高タンパク、低脂肪なだけでなく、抗疲労機能をもつアミノ酸“バレニン”が大量に含まれていますし、貧血予防に効果的な鉄分のほか、EPAやDHA、DPA(ドコサペンタエン酸)、コラーゲンも豊富に含有されています。それだけじゃなく、食物アレルギーを起こしにくい “代替動物性タンパク質”としても注目度が高いですし、脳神経細胞の研究においては、脳の健康に不可欠とされるプラズマローゲンがクジラの脳に含まれていることも報告されています」
杉本「いいことばかりじゃないですか! しかもアスリートにとって魅力的な栄養素づくし! なんでこんなにいいものをみんな知らないんですか?」
早武「私たち日本人が、庭で育てた鶏の命をいただきながら生きていた時代には、クジラは日本人の身体を支えてきた大切な食料で、大和煮や竜田揚げとして食べられていました。ところが、乱獲によって世界の海からクジラの頭数が減り、そこから約30年にわたってクジラを捕ってはいけない時代が続いたことで、私たちはクジラのありがたみがわからなくなってきているんです。しかし、2019年に31年ぶりに商業捕鯨が再開となったことをきっかけに、少しずつ、鯨肉を食べられるお店が増えてきています」
杉本「みんながおいしさに気づいてたくさん食べられるようになったら、また“捕ったらダメ!”ってなる可能性はないんですか?」
早武「現在は、昔とは違って、捕獲してもクジラの生息数に影響の出ない頭数を計算して捕獲枠を決めているので、その心配はありません」
杉本「天才っていっぱいいるんですね! そんなことができるなんてすごいな!」
早武「しかも、数が減少したままの鯨種は捕っていないので、ミンククジラやイワシクジラなど捕れる鯨種は限られています。そのほか、千葉の房総半島などではツチクジラも捕獲していて、クジラが上がったとわかると近所のおばちゃんたちがバケツを持って行って、その場で解体されたものを買って帰ったりしています」
クジラの命は海の生物にとってもありがたいもの
杉本「昔の光景ですね。そんな光景、テレビでしか観たことないですけど、捕れたてだと刺身がおいしいんでしょうね。居酒屋でクジラの刺身を食べている人を見たこともあるんですけど、そのほかにはどんな調理法があるんですか?」
早武「杉本さんはおにぎりが大好物とのことですが、おにぎりにできそうな料理としては、皮の部分を野菜などと一緒に炊き込む、炊き込みご飯があります。ご飯にクジラの出汁が沁みておいしいんですよ。生肉のほかに、クジラベーコンや大和煮の缶詰なども売られていますが、こういったものなら、調理の手間もかからないので楽ですよ」
杉本「淀ちゃんのニュースを観たときに思ったんですけど、クジラが海のなかで亡くなれば、他の魚たちの食べ物になるんですか?」
早武「そうです。クジラの死骸が深海に沈むと、その肉や骨などを摂取するためにさまざまな生物が集まってきて、“鯨骨生物群衆”といわれるコロニーが形成されるんですよ」
杉本「すごく興味深い話です」
食としてのクジラの魅力をアスリートたちに知ってもらうためにも、まずは栄養士さんに鯨肉の知識が普及されるといいと思う
――では早速ですが、行楽弁当をご試食いただきたいと思いますが、どの料理が一番気になりますか?
杉本「全部気になります。見た目がまずすごいですもん。しかも、私が大好きなおにぎりまで入っている! でもまずは、【鯨特上カルビ・ハラミグリル】からいただこうかな」
早武「このお肉、豚や牛と比べて濃い色をしているのがわかりますか? これって、鉄分が豊富に含まれているがゆえの色なんですよ」
杉本「なるほど! 焼きすぎというわけではないんですね。そして弾力があってすごくおいしい! これ、クジラって言われなかったら何の肉かわからないです。臭みも感じないし、これで栄養豊富ならいいことしかないじゃないですか。減量のためにブロッコリーとかささみとかしか摂っていない後輩たちに教えてあげたいです」
――クジラのおいしさと栄養価の高さを知ったら、柔道家のみなさんにメニューに取り入れてもらえそうですか?
杉本「私自身もそうですが、身体にいいとわかっていたら、ネットでしか買えないものだとしても必ず取り入れます。アスリートは基本的に、ベストな状態で本番に挑むためには、いつどんなタイミングでどんな栄養を摂るのがいいかを考えて食事するので、いいものがあればぜひ教えてほしいと思っています。ただし、アスリート本人ではなく、まずは栄養士さんの間でクジラのよさが広まったほうが、結果的にアスリートに浸透しやすい気がします。しかも、アスリートからの信頼が厚い栄養士じゃなきゃダメ。ドーピングに引っ掛からないかどうかを常に気にする必要があるので、信頼している相手がすすめてくれたものじゃないと、安心して食べられないからです」
――どんなメニューだとみなさんにウケそうですか?
杉本「【鯨赤肉の竜田揚げ】はやわらかくておいしいですね。ニオイからして唐揚げみたいだし気に入りました」
早武「竜田揚げは、地域によっては小学校の給食でも出ることがあるんですよ」
杉本「私の学校では出なかったんで初めて食べました。【鯨肉・本皮 海老のパエリア】【尾びれ・うねすのマスタード和え】は食感がおもしろいですね。特に尾びれは、クラゲみたいなコリコリした食感で楽しいです。食感でいうと、【鹿の子と真鯛 バロンティーヌ】に使われている鹿の子も、コリッとした独特の食感がありますね。赤身との味わいや食感の違いに驚きました」
――杉本さんの大好物のおにぎりはいかがですか?
杉本「私が一番好きなのは塩むすびなので、好きなものにサンドされている【鯨肉の佃煮おむすび】はやっぱり最強です! 佃煮の甘辛い味付けもいいですね。これが缶詰で売られていたら、買って帰ってチャーハンの具材にしたいです。【鯨脂の子と鶏レバーペースト バケット添え】は、一般的なレバーペーストと同じような感覚で食べられるのに、身体にいい脂を摂取できるのがいいですね。【心臓肉 香草パン粉焼き】は少々クセが強いのでびっくりしたけど、心臓肉を食べられる機会なんて滅多にないし、この部位を食べたことでますます、部位によってこんなにも味わいが違うのか! ということがよくわかりました。一日でこれだけいろんな部位を食べられるなんて貴重な経験ですよね」
私らしく、たくさんの人を笑顔にしていきたい
――鯨肉に興味を持ってもらえましたか?
杉本「もちろんです! でも、時間的にも、こんなにいろんな料理を自分で作ることはできないから、手軽にクジラを楽しめる加工食品があればもっといいのになと思います。世の中の働くお母さんたちもきっとみんな同じ気持ちじゃないかな。アスリートだってそうで、練習後にぱっと片手で食べられるようなものがあればすごく重宝します。たとえば、プロテインのジャーキーなんかを摂取するだけでも、回復力に差が出てくるし。ゼリー飲料くらい手軽にクジラの栄養を摂取できるものを開発してほしいです」
早武「加工品としては、ジャーキー、缶詰ならありますね」
杉本「スイーツ系でなにかできないですかね? クジラの脂を摂取できる甘いものがあればうれしいなあ。魚肉ソーセージのクジラ版もいいかも。でも見た目が黒くなっちゃいますかね? そこは開発の方にがんばっていただいて、おいしくて見た目もよくて、なおかつ手軽に摂取できるものをぜひ作ってほしいです」
――すてきなアイディアをありがとうございます。最後に、杉本さんの今後の展望についても教えてください。
杉本「出産も終わって一息ついたので、新しいことにどんどんチャレンジしていきたいです。柔道を広めることは現役の選手たちに任せられると思うので、私は、私にしかできないことをやっていきたいです。常に根底にあるのは、“人を笑顔にする仕事をしたい”という気持ちなので、そのために何ができるかを考えながら、活動の幅を広げていきたいです」
今回食べていただいたお弁当
1段目左から「鯨赤肉の竜田揚げ/心臓肉香草パン粉焼き」「鯨特上カルビ・ハラミグリルとグリル野菜」「鹿の子と真鯛のバロンティ―ヌ/尾びれ・うねすのマスタード和え」
2段目左から「鯨脂の子と鶏レバーペーストバゲット添え」「梅としらすのおむすび/鯨肉の佃煮おむすび/れんこんピクルス」「鯨肉・本皮と海老のパエリア」
料理提供:ウォルプタス 東京駅グランルーフ店
※今回特別に鯨肉でお弁当を作っていただきました!
▶杉本美香さん
杉本 美香(すぎもと みか)
1984年8月27日生まれ。兵庫県伊丹市出身。
日本の柔道家。
現役時代は度重なる大けがに悩まされたが、その試練に打ち克ち、
2010年東京の世界選手権では78kg 超級と無差別で金メダルを獲得。
日本人女子選手初となる二階級制覇を成し遂げた。
2012 年、ロンドンオリンピックでは78kg 超級で銀メダルを獲得した。
引退後は現役時代に所属していたコマツ女子柔道部のコーチ・監督を歴任。
現在はテレビ・イベント出演や、柔道教室などを全国各地で行ない、普及活動に取り組んでいる。
Instagram:https://www.instagram.com/mika__sugimoto/
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