「たくさんの人にクジラ肉を食べてもらうため、まずはクジラについて知ろうと捕鯨船の乗組員になった」板花貴豊さんinterview前編 | 聞く | くじらタウン

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2021.01.20

「たくさんの人にクジラ肉を食べてもらうため、まずはクジラについて知ろうと捕鯨船の乗組員になった」板花貴豊さんinterview前編

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▲イベント出店時にメディア取材に答える板花さん

元調査捕鯨船乗組員の板花貴豊さんが、クジラの魅力を伝えたくてはじめたお店『らじっく』。東京都あきる野市に店舗を構え、クジラ肉やクジラのお弁当を販売しているほか、当初の志通り、居酒屋などの飲食店にクジラ肉を卸したり、キッチンカーで各地に赴いて料理を販売するなどを通して、着実にクジラファンを増やし続けています。もちろん、webサイトでの情報発信にも熱心。クジラ肉の栄養価のわかりやすい説明や、家庭でおいしくいただくためのレシピなど、読んで楽しい情報も豊富です。しかし、実は板花さんがクジラに関わるようになったのは30歳を過ぎてから。一体どんな人生の転機があったのでしょうか?ご本人に話を伺ってきました。

スーパーの鮮魚売り場や教材販売の仕事で得た知識やスキルも、今の仕事に活かされている

――板花さんは元調査捕鯨船乗組員とのことですが、何歳頃から乗組員として働き始めたのですか?

「32歳くらいだったかな。それまでは普通にサラリーマンやっていたんですよ。順を追って説明すると、学校を卒業して最初の就職先はスーパーの鮮魚売り場でした。その後、大学の研究室を回る営業、教材販売の営業を経て、共同船舶に入社して日新丸に乗りました。それまでやってきたことは全部活きてますね。鮮魚売り場にいたからクジラの解体に携わる前から魚は卸せたし、大学の研究室で使う包丁をその場で研いで売ることもできた。大学を回っている時はバイオテクノロジーがメインだったから、栄養素も自然と覚えていきましたね。たとえばペプチドはどんな働きをするのかとか、アミノ酸にはどんな種類があるのかとか。教材を販売していた時期に調理師免許も取っていたから、船を下りた後の開業もスムーズでした」

クジラ肉のおいしさをたくさんの人に知ってもらうため、販売窓口となることを決意

――かなりユニークな経歴ですが、教材の販売に従事していて、急に調査捕鯨の船に乗りたいと思ったきっかけはなんだったんですか?

「幼稚園から一緒の幼馴染に共同船舶の職員がいて、大人になってからもお互いの家を行き来してしょっちゅう飲んでいたんですけど、そいつが家飲みするたびにクジラ肉を持ってきてくれていたんです。最初のうちは単純に『うめえ!』ってバクバク食べていたんですけど、話を聴くうちに、調査捕鯨に対して世界ではいろんな意見があること、クジラ肉を食べたことがない人はとても多いことを知るわけです。それで俄然、『こんなうまいものが食べられていないなんてもったいない!』っていう気持ちになって、『世の中の人たちがクジラを手に入れやすいよう、俺が販売窓口になるよ!』って宣言したんです。といってもまだまだクジラのことを十分に知らなかったので、まずは自分自身がクジラについて学ぶために船に乗ろうと、会社を辞めて共同船舶に入れてもらうために履歴書を書きました。それが32歳のときですね」

3人の子どもを奥さんに任せて、32歳で調査捕鯨船の乗組員に

▲日新丸

――随分思い切った行動を起こしましたね!

「今でも嫁さんには頭が上がらないです(笑)当時、子どもが2歳、年中、小1とかだったんですけど、船に乗っている間は、家庭に親父不在になるわけですから。転職したこと、船に乗ることを隣近所の人たちに話さずに出かけたもんだから、数か月居ないと思ったらあるときからは毎日家にいるところを見て、不思議に思っていたと思います(笑)」

――調査捕鯨船に乗ったらしばらくは帰れないですもんね。

「4か月間、南氷洋で捕鯨したら、次の4か月間は北西太平洋に行くから、だいたい8カ月くらいは家を留守にします。8カ月経って下船したらしばらくはすることがないから、その間は毎日畑仕事とかして、また次の乗船時期が来たらそこから8カ月くらい帰らない。そんな生活を3年近く続けました」

▲ヒゲクジラの利用図

解体したばかりの肉に触れながら学べたことは自分にとって大きな財産

――サラリーマンからいきなり調査捕鯨員乗組員になって、しんどくはなかったですか?

「正直しんどいことも結構ありましたけど、やっぱりおもしろかったんですよ。『世の中の人へのクジラ肉の販売窓口になる』っていう目標も支えになっていたし、なにより仕事の内容が楽しかった。僕は『製造部』という、クジラを解体して製品にするまでの流れを担当する部に所属していたので、クジラが解体されて製品になるまでの流れは一通り見ることができるし、その間に実際の生肉を触ることもできる。適切な急速冷凍の方法もそのときに覚えました。クジラ肉って天然の肉だから、一頭一頭大きさも脂の乗りも全然違うんですよ。船に上がった個体を見て、『今回のはいいっすね』なんて会話もしていました。解体した肉はコンベアで流れていくんですけど、その間まだ筋肉が活きてて脈動してる。そうしたすべてを目の当たりにできたことは、自分の中ですごく大きかったです。もちろん、船の上でクジラを食べることもありました。クジラステーキに鯨カツ、クジラのすき焼きだとか、おつまみ系だとベーコンや胃袋も出ましたね」

――そうやって部位ごとのおいしい食べ方を知っていったことも、現在につながっているのでしょうね。

「そうですね。目標通り、クジラについての造詣を深めることができたので、最後の乗船を終えるころには気持ち的にも準備万端で、すぐに物件探しを始めました。実際に開業したのは、それからだいたい半年後です」

▶ 板花貴豊さんinterview後編
子どものころの『おいしい』体験は一生ものだから、クジラ肉を販売する側も正しい知識を得てほしい

■板花貴豊さん
元調査捕鯨船乗組員。現在は鯨食専門店「らじっく」を営む。

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