和歌山県太地町にあるクジラ専門の研究施設「国際鯨類施設」で最新技術を使用した日本鯨類研究所の研究機関も公開! | 耳ヨリくじら情報 | くじらタウン

耳ヨリくじら情報

2024.12.11

和歌山県太地町にあるクジラ専門の研究施設「国際鯨類施設」で最新技術を使用した日本鯨類研究所の研究機関も公開!

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今年4月1日、古式捕鯨発祥の地として「クジラの町」と呼ばれ親しまれている和歌山県太地町に「国際鯨類施設」がオープンしました。
施設内では、鯨類の調査・研究を行う「日本鯨類研究所」の太地事務所も開設し、クジラの研究に取り組んでいます。さらに、クジラ関係の書籍約3万冊と資料を集めた図書室や研修ホール、会議室などが設けられ、図書室は一般利用が可能です。クジラについて知りたい方にはもってこいの場所となっています。
11月3日に開催された「全国鯨フォーラム2024in太地」のエクスカーションにて施設内を回り、施設や研究内容について説明を聞きました。

今回は実際に太地事務所ではどのような研究が行われているか、図書室ではどんな本がおいてあるのかなどを紹介していきます!

クジラのDNAを調査

「遺伝解析室」では‘‘大型鯨類の資源管理に必要な資源構造の解明’’や、‘‘国内市場の流通状態の調査’’、‘‘資源管理に資する遺伝学的解析手法の開発’’を行っています。
‘‘国内市場の流通状態の調査’’では毎年、日本全国の市場から350サンプルを集め、調査で集めたサンプルのDNAと比較し、市場にでているクジラとデータベースが一致するのか、市場に出回っている鯨肉は正しく捕獲したものなのかなどを調査しています。

サンプル自体はすべて太地事務所で保管されており、1番古いもので1979年に採取されたものが保管されています。

クジラの新しい年齢の調べ方を研究!

クジラの年齢の調べ方は、従来‘‘クジラの耳垢’’や‘‘クジラの歯’’に形成されている成長層をみて査定していました。しかし、個体によって成長層が見えにくかったり、歯がかけていたりなどできちんとした年齢を査定できないことがあったそうです。
そこで「化学分析室」では遺伝子学的に年齢を調査できるよう『ラセミ法による推定年齢』の研究を続けています。

『ラセミ法による推定年齢』とは、ヒゲクジラの水晶体中に含まれているタンパク質‘‘アスパラギン酸のラセミ化’’を化学分析した年齢の調べ方を開発中です。
水晶体の中心には生まれた当時のままのタンパク質‘‘アスパラギン酸’’があります。アスパラギン酸にはD体とL体があり、生まれたばかりの水晶体はほとんどがL体ですが、年を取るとともに熱力学的法則にしたがってL体がD体に変化します。それを‘‘アスパラギン酸のラセミ化’’といい、D体が規則正しく生成されていきます。
これを化学分析で測定することで、その個体の年齢を知ることが出来るのです。
実際に従来のやり方である耳垢で調査した推定年齢とラセミ法による推定年齢が合っているのか比較し研究を進めています。

個体ごとの生態について解析!

「生物解析室」では主に生物標本を使って、クジラの個体ごとの生態について大きく2つに分けて顕微鏡で解析します。1つは個体の‘‘生殖体’’をみてその個体が生成熟しているのかどうかを調べて、その個体の繁殖状況を確認します。
調査した個体の繁殖状況によって、鯨類資源の再生産状態を把握することができます。

もう1つは‘‘耳垢’’や‘‘歯’’に形成される成長層を使って推定年齢を数えます。
捕った個体が何歳かが分かると、年齢に基づいた生物情報を出すことができます。例えば年齢と性成熟の情報を合わせて何歳で性成熟するのか、何歳で体長が伸びていくのかといったことなど様々なことを知ることができます。

クジラの食生活を調べる!

「ウェットラボ」では、クジラの胃の内容物を調査し、クジラの食性情報を収集しています。もともとは、船上で解体時に調査していましたが、事務所でも研究できるよう太地事務所に新しく設置されました。

ここでは、クジラが食べたモノの種類や大きさ、重さや量などを細かく調べます。
胃の内容物は季節や不漁などが関係していて、昔は秋ごろに大きなさんまが胃の中にたくさん入っていましたが、現在はまた違う種類の魚を食べていることなどが分かっています。
そんな胃の内容物の変化を調べることは、摂餌生態の解明に貢献したり、サンマなど他の水産資源との関係の分析・影響評価につながったりと重要な情報となります。

「資源解析研究室」では、主にクジラの資源管理についての研究をしています。
まず初めに、どのくらいの数のクジラがいて、数としては増えているのか、減っているのか、また捕獲前の資源量に対して豊富なのか絶滅に近いのかを把握して評価をします。
その後、その資源が豊富にあった場合にどのくらいの数のクジラを捕っていいのかというのをRMP(改訂管理方式)という計算方式に沿って100年後も資源に影響がないということを計算したうえでクジラの捕獲可能量は算出されています。

クジラ専門の図書室

「図書室」では鯨類の生態・歴史・文化に関する資料や論文や写真や動画など、鯨類に関する資料全般を約3万点収集しているクジラ専門の図書室です。

鯨類以外にも水産系の雑誌も交換図書として収集しており、水族館や博物館といった施設や日本の鯨に縁のある場所の資料などが各地から一同に集まっています。鯨のみならず海洋全体から鯨類の食餌や生活がどのように変化しているのかなど、直接的なものも間接的なものも広く閲覧することができます。こういった資料は研究者の論文執筆などに使用されています。

なんと同室は研究者のみならず一般の人も利用できるようになっています。
貸出は行っていませんが事前に予約をすれば誰でも見られて、閲覧席は18席あるので座ってゆっくり調べることができます。
また、図書室には複写機が備えてあるので、資料は著作権法の規定内で複写することができます。時間内に読み終わるのが難しいなとおもった時はこちらを利用できると思うと嬉しいですよね!

図書室にきたらはじめにこれを読んでほしい!クジラ好き必見の本3選

図書室担当の日本鯨類研究所の大藪さんから、クジラを知りたい!という方に是非読んでもらいたい本を3つ選んでいただきました。

1冊目は、同施設がある和歌山県太地町を舞台に描かれた「おクジラさま ふたつの正義の物語」。国際的、政治的に問題視された‘‘捕鯨’’について、古式捕鯨発祥の町として捕鯨をおこなってきた太地町と、クジラを資源として利用したくない人々のどちらの意見も正義として取り上げ映画化された作品です。 どちらの意見・心情も描かれているので、そういった捕鯨の文化、歴史について知ることができる1冊となっています。

2つ目は、クジラと人間の歴史についてまとめた「クジラと日本人」。
日本鯨類研究所の理事長・名誉顧問を務めた大隅清治さんが著作した作品で、捕鯨の歴史や文化、クジラの資源管理についてなどを知りたい人におすすめな1冊です。

3冊目は、生態系のことを知りたい方におすすめな「クジラ・イルカの疑問」。
こちらは「クジラとイルカって違うの?」や「クジラは口で呼吸できるの?」のような質問をQ&A形式で研究者の方が回答しているので、クジラの生態について知りたいなって思った方は初めにこちらを見ていただくと分かりやすいので入門書としておすすめです。

専門書なども見ることはできるのですが、今回はクジラについて初めて調べる方におすすめの本を3冊紹介してもらいました。
ぜひ気軽に予約して見に行ってみてくださいね。

自然豊かな景観やクジラヒゲを使用したオブジェも魅力!

研究内容や図書室についてお話してきましたが、エントランスや外の景観もとっても魅力的です。外は高台にあるため自然豊かなロケーションで、熊野灘(くまのなだ)も見え景色がとても綺麗です。

エントランスには大きな口を開けたヒゲクジラのオブジェが展示されています。ヒゲクジラは口にびっしり生えたヒゲをフィルター代わりにして1度に大量のエサをこしとって食べているのですが、このオブジェについているヒゲ(写真右)は本物のクジラの口に生えていたヒゲを使用しており、よりリアルな仕上がりとなっています。中に入ってすぐこのオブジェを見ると、その大きさとリアルさに圧倒されます。近くでよく観察してみてくださいね。

「国際鯨類施設」は、クジラの町と呼ばれる太地町で鯨類の研究・調査ができ、研究者はもちろん、一般の町民や県民の方などがクジラについて学びを深めることができるクジラ専門の施設です。クジラの知識や情報が飛び交う発信の場としてこれからどのように発展していくのか楽しみですね!

▶国際鯨類施設
住所:〒649-5171 和歌山県東牟婁郡太地町太地1770 -1
【図書室】
開室時間:月曜日~金曜日 午前10時から午後4時まで(12時から13時を除く)
休室日:土曜日、日曜日、祝日、年末年始、臨時休室日※
※研究所の仕事状況により、閉室する場合があります。
複写サービス
金額:白黒(全サイズ)1枚20円 カラー(全サイズ)50円

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