耳ヨリくじら情報
2023年8月、半世紀にわたって愛されてきたクジラ料理の名店が、東京・白金に移転オープンしたと食通の間で話題となりました。店名は『うずら』。1973(昭和48)年に麻布十番で産声を上げた同店が、白金の地に移転したのは2008(平成20)年のこと。創業以来、常連客から「お父さん」「お母さん」と呼ばれるご夫婦で切り盛りし続けていましたが、昨年、お父さんが急逝されたことで一度は閉店。しかし、お客さんたちからの熱い要望を受けて、白金内で移転オープンを果たした同店の魅力に迫ります。
大好きな「お父さん」「お母さんに」会うことも来店の目的のひとつ
50年前にオープンした当初は、和食を中心としたメニューをそろえていた『うずら』。夜遅くまで営業していたこともあり、銀座や六本木方面から、お仕事帰りに疲れを癒しに来るお客さまが多かったといいます。常連客のお目当てはおいしい料理とお酒だけではありません。永田晃一さん、芳子さん夫妻のあたたかな人柄に触れることで、「明日からもがんばろう」と英気を養うことができたのです。 通い始めた当初は新入社員で、先輩に連れられてきては、食後には自ら食器を下げていたという常連客の多くは、今ではそれなりの役職がついていたり一流の経営者だったり。それでも、今なお変わらず「お母さんの役に立ちたい」と食べ終わった食器を下げる習慣は続けているというエピソードからも、いかにこの店がお客さんみんなに愛されている店であるのかがわかります。
『うずら』創業当時の50年前は商業捕鯨時代。地域によっては日常的にクジラが食べられていた
常連客のなかには、自分の生まれ育った土地のこと、子どものときに好きだった食べ物のことをご夫妻に話して聞かせる人も多かったといいますが、そのなかでお母さんたちがハッとさせられたのが、実に多くの関西出身の常連客がクジラ料理を懐かしんでいたことです。それもそのはず。2019年、日本が31年ぶりに商業捕鯨を再開したニュースが話題となりましたが、1987年の商業捕鯨停止以前の日本では当たり前にクジラが食べられていて、特に関西出身の常連客たちはクジラが大好きだったからです。つまり、50年前の『うずら』のお客さんたちは、東京でも関西で食べるようなクジラ料理が食べられたらなあとこぼすほど関西でクジラ料理を楽しんでいたということ。また、40代半ば以降の人なら、小学校の給食でクジラの竜田揚げを食べていたという人も多いでしょう。
白髪ネギを薄くスライスした畝須ベーコンでくるみ、辛子醤油でいただくのが『うずら』流
話は戻って、関西出身の常連客たちの心の叫びを聞いた二人は一念発起。「みんなに喜んでもらいたい!」と、信頼のおける築地の商店から仕入れたクジラベーコンを提供したところ、あっという間に人気に火が付き、評判メニューとなりました。今でも大人気のこのベーコンは、白髪ネギをくるりと巻いて、辛子をたっぷり溶いた醤油でいただくというユニークな食べ方もミソ。滋味深い味わいの薄くスライスされた畝須ベーコンに、ネギの風味と辛子のアクセントが加わり、さっぱりとおいしくいただくことができます。
美容と健康のためにも絶対頼みたい!身体が芯からあたたまる「ハリハリ鍋」
ベーコンの人気が高まると、次にメニューに加えられたのはハリハリ鍋。鯨肉と水菜がメインのこの鍋は、関西圏で昔から食べられている料理ということもあり、同店ならではの味に仕上げるためにさまざまな工夫が重ねられました。そんななか、スッポンの丸鍋にヒントを得たお父さんは、スープに大量の生姜を使うことを思いつきます。そうして完成したのが、身体がポカポカあたたまる滋養豊富なスペシャリテ。疲労防止・回復効果の高いバレニンをふんだんに含む鯨肉と、抗酸化作用の高い生姜とはとても相性がよく、美容や健康のためにも年間通して楽しみたい一品に仕上がっています。 鯨肉には生姜醤油で下味をつけ、黒コショウを振っているのもポイント。昆布が効いた出汁のおいしさが染みた油揚げ、シャキシャキの水菜とのマリアージュを噛むほどに楽しめます。また、隠し味的にクジラの本皮が数枚投入されているので、そのぶんスープのうまみとコクもレベルアップしています。
“クジラの大トロ”の呼び名を持つ高級部位「尾の身」は、口のなかでとろける食感を堪能したい
そしてもうひとつ、同店を訪れたらぜひ試してほしいのが尾の身のお刺身です。“クジラの大トロ”とも呼ばれる高級な霜降り肉ですが、なかでも同店の尾の身は別格。上質な脂がじんわりと口のなかに広がりながら溶けていく時間は、得も言われぬほどの至福のひとときです。また、鯨肉と相性抜群のにんにくのたまり漬けなども添えられているので、お好みでお刺身と一緒に楽しんでくださいね。
ちなみに、これらの3品は単品でも注文可能ですが、お得に堪能したいなら断然コースがおすすめ。ベーコン(2,600円)、ハリハリ鍋(5,500円)、尾の身のお刺身(7,400円)のほかに、さらし鯨、鯨の竜田揚げ、はりはり鍋の〆のらーめんor雑炊、季節のシャーベットで構成された内容で1人前12,000円ととっても充実しているので、特別な日のご褒美として楽しむのもアリですね。
また、この日の3品はそれぞれ、ベーコン=イワシクジラ、ハリハリ鍋=ミンククジラ、尾の身=ナガスクジラが採用されていましたが、『うずら』では鯨種にこだわることなく、その日入った鯨肉から一番いいものを見繕ってもらっているそうですよ。
みんなが大好きな「お母さん」との会話も楽しみのひとつ
現在、お店の料理を任されているのは、お母さんから直々にお店の味を伝授された原子貴之さんですが、お母さんも毎晩お店に立っているので、1階のカウンター席なら会話を楽しむことも叶います。家族や友人と水入らずの時間を楽しみたいなら、個室も選べる2階のテーブル席へどうぞ。イラストレーターのルミンズさんが手掛けた愛らしいクジラのイラストが飾られた店内で過ごせば、クジラへの関心ももっと高まるはずですよ!
■くじら料理「うずら」
住所:〒108-0072 東京都港区白金1-1-20
営業時間:17:00~23:30(L.O22:30)