「捕鯨賛成派も反対派も、結局はクジラのことが大好きなんだと思う」あらたひとむさんinterview後編 | 聞く | くじらタウン

聞く

2021.06.30

「捕鯨賛成派も反対派も、結局はクジラのことが大好きなんだと思う」あらたひとむさんinterview後編

Share :

クジラにまつわるトリビアの1日1ツイートにチャレンジ中のWhale Artist あらたひとむさん。クジラの権威から教わった専門的な話や、書籍やインターネットを通して知った「へぇー!」となるネタを、愛らしいイラストとともに発信されています。また、キャラクターデザインや企業とのコラボレーションにも意欲的なあらたさん。インタビュー前半では、クジラを描くようになったきっかけやそこからの奮闘についてお伺いしましたが、後半では、クジラを描く際に大切にしていることや、捕鯨をとりまくさまざまな意見について思うところも伺います。

▲ヒゲクジラVSハクジラ モチーフにしたチェス

クジラは地球史上最大の生き物だと知ってほしい

――あらたさんがクジラを描き始めた当時は、クジラの見た目や生態について知っている人がほとんどいなかったとのことですが、現在は日本人のクジラへの知識はアップデートされていると感じますか?

「海洋汚染が叫ばれるようになったころから、クジラを環境のシンボルマークとして採用する企業も増えているし、その分、クジラモチーフを見かけることも多くなったように思います。だけど意外と知られていないのが、クジラは地球史上最大の生き物だということです。『一番大きい生き物は恐竜でしょ!』と思っている人は案外多いと思うけど、実際はクジラのほうが大きいんですよ。しかも、ただ大きいというだけじゃなくて、『地球が始まって以来もともと大きい』ってすごいことですよね? ガガーリンの名言『地球は青かった』はほとんどの人がご存知かと思いますが、僕の名言として、『宇宙から地球を見たら最初に動くのはクジラだろう』もみんなに知ってもらいたい! せっかくクジラが生きているこの時代に生きているんだから、知らないともったいないですよ」

いつかクジラの骨をキャンバスに作品制作したい

▲ミンククジラの顎骨 マッコウクジラの肩甲骨

――そうした知識を得るためにたくさん本を読まれてきたと思いますが、特におすすめがあれば教えてください。

「バイブルにしているのは、『クジラとイルカの図鑑』(日本ヴォーグ社)です。同じ本の洋書版も持っているんですけど、英語での呼び名がわからないときにも簡単に調べられるし、すごく役に立っています。漫画だと『第九の波濤』が好き。ヒロインはクジラを飼いたいと思っているという設定なので、クジラネタが出てくるし、恋愛ものなので楽しく読めます。クジラの骨に興味があるなら、『鯨類の骨学』(緑書房)もおすすめ。マッコウクジラって頭蓋骨の頭の形の部分がなく、下顎などの骨だけだから、もしもマッコウクジラが絶滅して骨だけ見つかっていたとしたら、そこから元の形を推測するって絶対できなかったと思うんです。そのことを知ってから、骨への興味がさらに強くなりました。いずれは、クジラの骨に彫刻や色彩を施したいです。僕は捕鯨に関してはニュートラルな立場でいたいという考えのため、人が捕ったクジラの骨は使わないことにしているので、調査が終わったストランディングの個体の骨を譲ってもらっています。ただ、譲ってもらったものの、失敗が怖くて今のところ手付かずな状態のまま。ミンククジラの顎骨やマッコウクジラの肩甲骨を持っているので、骨の持ち主はどんなクジラだったのか、どんなところで泳いでいたのかをタトゥーみたいに刻印するのもおもしろいかなとイメージしています」

目を描くことには一切妥協したくない

――クジラに関するアート作品を制作するにあたって、大事にしているのはどんなことですか?

「写真には勝てないと思っているし勝つ気もないけど、生物学上おかしくない描写にすることは心がけています。でもなるべく線の数は少なくシンプルにして、しっぽは躍動感が出ている瞬間をとらえるなどかわいさも意識しています。そして一番こだわっているのは目です。パーツのサイズとしては小さいから、離れて見たらただの点に見えるかもしれないけど、クジラの目ってアーモンドみたいな形ですごくかわいいんですよ。目だけで何回も描き直すことがよくあります。時々、『あらたさんの描くクジラの目が好きです』って言ってくださる方がいるんですけど、すごくうれしいですね。目をこだわることで全体的なバランスもよくなるし、より多くの人にかわいいと思ってもらえると思うので、これからも目の表情にはこだわり続けたいです」

愛してやまないコククジラを描いてほしいとのオファーがきたときには大興奮した

――作品を観た方から声を掛けていただいたり、クジラについてお話されたりすることも多いのですか?

「面識のない方とSNSを通して交流することもありますし、周りにいる人とクジラの話をすることもありますよ。鉄板ネタとして話すのは、『ハエとクジラの話』です。生き物って小さくなればなるほど時間の体感速度が速くなるらしく、ハエから見たら僕ら人間はすごくスローペースで動いているそうなんですけど、ということは、もしシロナガスクジラと友だちになって『ちょっと遅刻しそうだわ』って連絡があったら、3日は待たないといけないよ、っていう話です(笑)ちなみに、僕は友だちになるならコククジラがいいです。クジラって99%受け口なんですけど、コククジラだけ上唇が長いんですよ。こいつだけ、古代からのフォルムを受け継いでいるんです。そのフォルムが好きすぎて、自分のサインにもコククジラのモチーフを取り入れています。2012年に制作された『誰もがクジラを愛してる』っていうアメリカ映画は日本でも公開されているんですけど、その映画に出てくるクジラもコククジラで、日本版の映画の宣伝に使うイラストを描いてくださいとのオファーがきたときには興奮しましたね。なんせ本当に一番好きなクジラですから」

それぞれの鯨種の特長をとらえることを大事にしたい

▲ご当地くじらキャラクター図鑑

――鯨種による描き分けも大変そうです。

「大変であると同時に、それが醍醐味でもあります。どんなクジラなのかがちゃんと伝わるように描きたいし、これまで手掛けてきているご当地キャラクターの制作などの仕事も、特徴をとらえることを意識しています。今のところ47都道府県中16の県のキャラクターを描かせてもらっていて、小笠原村観光局の公式キャラクター『おがじろう』という、サングラスをかけたクジラもデザインさせてもらっています。おがじろうは僕と同じサングラスをかけているんですけど、サングラスを外すとちゃんと瞳はつぶらなんですよ。最近では、CASIOのG-SHOCK“イルクジモデル”のデザインを手掛けさせていただいたこともあります。G-SHOCK25周年ということで、イルカもクジラも25種類描き分けたんですけど、イルカはともかく、クジラを25種類描き分けることには苦戦しましたね」

クジラのことが憎くて捕鯨している人なんてひとりもいない

――最後に、捕鯨賛成派/反対派の議論が活発なことに対して、思うところがありましたら教えてください。

「議論がおこなわれることはいいことだと思います。僕はニュートラルな立場なので両者の間に入ることもあるんですけど、そのたびに思うのが、『結局みんなクジラが好きなんだな』ということです。クジラのことが憎くて捕鯨している人なんてひとりもいないし、誰もがクジラのことが大好きで、この生き物のことをもっと知りたいと思っている。話を聴いていると、『結局お互いが言いたいことって同じことじゃん!』ってこともよくあるし、クジラが好きな人は本当にクジラのことをよく考えていることがわかります。その想いを胸にしてどう行動するかは一人ひとりが決めることだし、その人なりの決断を尊重していきたいなと思います」

▶前編 「クジラの魅力をみんなに伝えたいから、ずっとクジラを描き続けている」あらたひとむさんinterview前編

■あらたひとむさん

1973年生まれ。1990年からクジラをモチーフにしたイラスト・デザイン・絵本・グッズ製作などジャンルにこだわらずクジラにこだわり活動中。一番好きなクジラはコククジラ。
I LOVE WHALES あらたひとむホームページ

Share :