耳ヨリくじら情報
2011年3月11日から10年の月日が経過。節目の年である2021年には、改めて復興について考える機会も多いことでしょう。現地に暮らす人々だけでなく、日本中が一丸となって復興を目指したこの10年間には、人のあたたかさや強さを実感できる出来事も数多くありました。そのひとつが、石巻市の水産加工品メーカー「木の屋石巻水産」の復活です。三陸で水揚げされる新鮮な魚を使用した缶詰や加工品を製造している「木の屋石巻水産」の創業は1957年。以降、代表商品である「鯨大和煮」をはじめ、「くじらの和ヒージョ(鯨肉をアヒージョ風にオリーブオイルに漬けて和のだしでうまみを加えた商品)」にいたるまでのさまざまな缶詰を生み出し続けてきました。
しかし、震災によって工場が崩壊。倉庫で出荷待ち状態であった缶詰約100万缶の半分以上が失われ、原料貯蔵用のタンクも流されてしまいました。「鯨大和煮」を模したタンクは、県道の分離帯まで流されたまま。その光景が世界中に配信されて震災の被害の大きさが伝わると、たくさんの人が復興に向けて動き出しました。その結果、2013年には新工場も完成。同工場では、工場見学も受け付けています。なんと、缶詰の工場見学ができるのは日本でここだけ。これはぜひ行ってみたいですよね。
しかも、「新鮮な魚の、本物のおいしさを届けたい」との想いから、すべての缶詰は保存料などの食品添加物はできる限り使用せずに作られているので、安心してお土産品を買いそろえることもできそうです。
見学できるのは、2013年に完成した同社の新工場、美里町工場(写真上)。津波の心配がないよう陸内部に建てられた工場は、木の屋の象徴であるクジラをイメージしてデザインされています。広大な敷地と丸みを帯びた屋根が、まるで大海にたゆたうクジラみたいに見えますよね?
建物の中に入ってラウンジを抜けると、見学通路(写真上)があります。
この見学通路から見えるのは、缶の中に原料を一つひとつ手詰めする「充填」の工程がおこなわれる「充填室」。工場内には工程順に7つの部屋がありますが、充填室はそのうち6つめの部屋に当たります。
7部屋の構成は、缶詰以外の商品を真空パックする「包装室」、鯨肉をカットしたり原料を蒸らしたりなどの下処理をおこなう「下処理室」、原料を煮るなどの作業をおこなう「佃煮室」、原料のクジラや魚を勘に詰めやすいように形を整える作業をおこなう「原料供給室」、タレを作る「調合室」、そして「充填室」と続き、最後に缶詰めにラベルを貼ったり箱詰めしたりする「デリバリー室」となります。
充填の工程において手作業で扱われるのは、食べやすい大きさにカットした鯨肉。原料供給室で、熟練の手つきでカットされたものです。
鯨肉は、一缶一缶に丁寧に手詰め。
さらに大和煮の場合は、生姜も詰め込んでいきます。
その後、砂糖や醤油でできたタレを注液。こちらのタレは、「調合室」で作られたものです。
脱気して中の空気を取り除いたら密封していきます。脱気することで、密封した缶詰を加熱殺菌中に容器内の空気が膨張することを防ぎ、中身の色や香り、味などの変化も防ぐことができるのです。
こちらは、塩味をしみこませた鯨肉にオリーブオイルを入れて、缶の中で煮込んで作る「くじらの和ヒージョ」にオリーブオイルを注液しているところ。とろとろと流れているオリーブオイルを眺めているだけで、なんだかお腹が空いてきそうですよね。
工場見学の後に館内でいろんな缶詰を食べるのも楽しい
工場見学の所要時間は約10分。丁寧に手詰めされていくさまを見て缶詰愛が深まった後は、缶詰型の「タイムカプセル作り体験」なども併せて体験してみてはいかがでしょうか?
さらに、併設のおみやげ直売所では、「鯨大和煮」や「くじらの和ヒージョ」はもちろん、鯨ベーコンや鯨と相性ぴったりのお酒なども購入できます。購入した缶詰はお土産として持ち帰るのはもちろん、館内の休憩スペースで試食するのもおすすめ。従業員の方から、震災からの会社の歩みについてもお話を聴くことができるので、ぜひゆっくりと楽しんでみてくださいね。節目の年に、改めてたくさんの人の尽力を知ることは、自らの生き方を顧みることにもつながるはず。もちろん、おいしいクジラを食べて「木の屋石巻水産」を応援したいという気持ちも強くなるはずですよ。
※現在感染症拡大予防のため工場見学は行っておりません。再開について(2021年3月10日時点では)日程は決まっておりません。工場見学にご興味がある方は、直売所に直接ご連絡お願いいたします。
■株式会社 木の屋石巻水産
・石巻本社工場
宮城県石巻市魚町1-11-4
TEL : 0225-98-8894
・美里町工場
宮城県遠田郡美里町二郷字南八丁2-2
TEL : 0229-29-9429
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