聞く
宮城県石巻市に本社を置く「木の屋石巻水産」は、昭和32年(1957年)創業の老舗水産加工品メーカーです。代表商品は鯨肉の加工品。鯨大和煮の缶詰をはじめとする、さまざまな鯨肉加工品を取り扱っています。代表を務めているのは木村優哉さん。同社三代目として、商品やSNSを通して、海の幸のおいしさを広く世界に発信し続けています。「おいしいクジラをたくさんの人に食べてもらいたい」。その想いから、各地でのイベントなどにも積極的に足を運んでいる木村さんにお話を伺いました。
1~2か月に1回でもいいから、家庭でもクジラを食べてもらえるとうれしい
――老舗水産品加工メーカー三代目の木村さんにとって、クジラは小さいころからなじみ深い食べ物だったかと思いますが、木村さんにとってクジラはどんな存在なのでしょうか?
「単純に、おいしくて身体にいい食べ物です。安いものではないから頻繁に食べるのは難しいけど、月に1回や2か月に1回でも食べてもらえるとうれしいなと思います。石巻では、親が食べるから子どもも食べるし、クジラを食べるというのは普通のこと。業界の内側に入ってしまうと難しい問題もたくさんあるけど、それを一般の消費者に伝えるのは無意味だなというのがわたしの考えです」
石巻では、クジラは家族が集まるお盆やお正月に欠かせない食材
――石巻の方々はみなさん、どんなときにクジラを召し上がるのですか?
「昔より値段が高くなっているので、日常的に食べる人は多くはないかもしれませんけど、好きな人は週一、月一で普段の食事として楽しんでいらっしゃいますね。だけど一番はお盆やお正月です。家族が集まる食卓には、必ずといっていいほど刺し盛りの中にクジラが入るので、その時期には刺身用のブロック肉をお求めになる方がたくさんいらっしゃいます」
バター焼きにしてマヨネーズをつけて食べるのが木村家の定番クジラ料理
――木村さんも子どものころからご自宅でクジラを召し上がっていましたか?
「そうですね。親がバター焼きが好きだったんで、うちではよくバター焼きが出ていました。バターで炒めて醤油と塩で味付けしたものに、マヨネーズをつけて食べるのが定番スタイルでした。シンプルだけどすごくおいしかった記憶があります」
子どもと一緒にクジラを料理すると楽しい
――今でもよくご自宅でクジラ料理を召し上がりますか?
「月に2回は家で料理します。土日に向けて刺身肉を買ってきて竜田揚げ用に仕込むんですけど、子どもたちにも手伝ってもらっています。一緒に作るのは楽しいし、自分たちで作った揚げたてはうまいんですよ。400gくらいのブロック肉で買えば、刺身と竜田揚げの両方を十分に楽しめます。竜田揚げって全然難しくないから、ぜひみなさんにも作ってほしいですし、家庭では男性がクジラ料理を担当するのがいいと思うんです」
骨や内臓を取る必要がないクジラは調理が簡単
――クジラ料理は男性が! それはおもしろい考えですね。
「クジラに関してはうちも、奥さんは“食べる専門”です! 旦那さんにとっては、いいところみせるチャンスだと思うんですよ。クジラって基本的にブロックになっていて内臓や骨、筋を取る必要もないからゴミも出ない。調理する前日にブロック肉をパックのまま冷蔵庫に入れ、ゆっくり肉を解凍させることだけ気を付ければ、意外と簡単に調理できるんです。まずは一回やってみてほしいです」
クジラの竜田揚げは、フライパンに多めに油を注ぐ“揚げ焼き”で作ってもおいしい
――ぜひレシピを教えてください。
「本当に簡単ですよ。お好みですけど醤油と味醂をだいたい3:1くらいと、生姜適量を入れて一晩漬けこんだら、翌日に片栗粉をつけて揚げるだけです。揚げるっていっても大量に揚げ油を用意する必要もなくて、フライパンに少し多めに油を注いで裏返しながら揚げ焼きすれば十分おいしく仕上がるんで」
冷凍保存するときは、ラップを巻いてからジップロックすると完璧
――ブロックを一気に食べきれそうにないときは冷凍してもいいですか?
「大丈夫ですよ。使い切れなかったらラップ巻いてからジップロックして冷凍するといいですよ。ちゃんと空気を逃がして冷凍すればおいしさを保てるので。解凍するときは、前の晩から冷蔵庫に移しておくのがおすすめです。寝る前とかにパックのまま冷蔵庫に移しておけば、翌朝にはいい感じに溶けていますよ」
クジラは不飽和脂肪酸だから体内に蓄積されにくい
――ブロックだけでも、その3通りの食べ方ならすぐに真似できそうですし、可能性は無限大ですね。
「どの食材もそうだと思いますけど、深いですよ。部位ごとに違う魅力もあります。たとえばベーコンに使われる鯨の皮の部分もめちゃくちゃ身体にいいと言われているし。豚肉とかの動物性の肉って常温で置いとくと脂肪分が固まってくるんですけど、クジラは不飽和脂肪酸だから、常温で置いておいても固まりづらい。つまり、体内に摂り入れたときにコレステロールの原因になりづらいということです。それに、クジラは養殖できないから100%自然由来。そういう意味でも、安心できる食材だなと思います」
忙しくて料理する時間がないときには、クジラの缶詰も利用してほしい
――水産品加工メーカーの木の屋としては、クジラの缶詰をもっと食べてもらいたい想いもあるのでは?
「仕事にプライベートにとがんばっているみなさんは、夜遅く帰宅後に自分で調理するかっていったらしたくないし、手がかからないのが一番ですよね。自分もそうだからその気持ちはすごくわかるので、そういうときには缶詰を役立ててもらいたいです。だけど、食材の本当のおいしさを楽しむことも大事にしてほしい。そういう意味でも、週末に旦那さんがクジラ料理を作るのはすごくいいなと思うんですよ。いつもがんばっている奥さんに、『今日は俺がやるからゆっくり休んでてよ』って。そのほうが絶対おいしいじゃないですか。出来立てのクジラ料理を家族で囲むことで、食材本来のおいしさをゆっくり堪能してほしいですね」
▶ 木村優哉さんのIntervew後編
「難しいことは考えず、おいしくクジラを食べてほしい」
■ 木村優哉 さん
株式会社木の屋石巻水産 代表取締役
1984年生まれ。宮城県石巻市出身。 クジラ、サバ、イワシなどの缶詰や加工品を製造する 1957年創業水産加工品メーカーの総務兼製造責任者を勤める。東日本大震災の津波被害を乗り越え再建を果たし、本社工場、見学可能工場、直売所を構える。