「クジラのあたたかな眼差しに見守られて、地球上の生きとし生けるものすべてが平和に生きていけたらいい」松崎大輔interview | 耳ヨリくじら情報 | くじらタウン

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2022.06.22

「クジラのあたたかな眼差しに見守られて、地球上の生きとし生けるものすべてが平和に生きていけたらいい」松崎大輔interview

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【Embrace】

動物や自然の在りようは、時にわたしたちに大きな気付きを与えてくれます。しかし、悲しい哉、統制された社会に生きていると、無垢なものに正面から向き合う余裕がなくなりがちなどころか、いざ向き合ったときに「感じる力」がうまく機能しないこともあるもの。そうした状態から脱却するためにも、時に立ち止まって自分を見つめ直すことはとても大切です。度重なる転職や海外生活を経て、37歳で画家に転身した松崎大輔さんも、これまでに自分を見つめ直すことにたくさんの時間を割いてきたひとり。その過程で描くようになったクジラには、どんな想いを載せているのでしょうか? ご本人にお話を伺いました。

「自分らしさを活かして生きていきたい」の想いから37歳で画家に転身

――まずは、画家として活動をスタートしようと思ったきっかけを教えてください。

松崎「子どものときは絵が得意ではあったものの、中学高校大学では全然その道に進むことは考えていなくて、自分でもありきたりな人生を歩むものだと思っていました。ところが、大人になってから病気を患ったり、社会に出てからうまくやっていけなかったりしたことで、自分の生き方はこれでいいのだろうか? と考えるようになりました。いろんな仕事をしてみたし、海外で暮らしていた時期もあったんですけど、何をやってもどうもしっくりこない。しかも、身体を壊して長らく社会生活を送れていなかった期間に、世の中を斜めに見るようになったという自覚もありました。そんな悶々とした気持ちを抱えたまま日本に帰国したのが37歳になるちょっと前。それまでの間に、哲学や心理学の本を読んで、“自分らしさを活かして生きていきたい”と思うようになったこともあって、リハビリだと思って久しぶりに絵を描いてみたんです。そしたら思った以上にうまく描けたし、描けば描くほど自分の世界が露わになってくることを実感したんです」

クジラは共生の象徴のような生き物

――クジラをはじめとする動物をモチーフとしているのはなぜですか?

松崎「描こうと思って紙やキャンバスと向き合うと、自然と動物が出てきていたんですけど、今はそうしたものを描くことに意味付けをしています。動物は、生きるための“食う・食われる”以外、他者を脅かしたり滅ぼしにかかったりしないのに、人間は相手を尊重せず奪い合いをすることもある。人間も動物のように、調和、共生できないものだろうか? という意味付けです。クジラを描くことが多いのは、彼らはその象徴のような生き物だから。興味を持って調べているうちに、生きるためにクジラの身体に寄生している動物がいることも知りました」

人間は相手の立場に立って物事を考えることなく、奪い合いばかりしている

――松崎さんの描かれるクジラはとても穏やかな空気をまとっていますよね。

松崎「意識しているわけじゃないけど、自然にそういう表情になっています。絵を見てくれた人から、“ご自身の心境の表れでは?”と言われることもありますが、確かに、描いているときには、“みんなが共生できて、奪い合うことなく、お互いがお互いを活かしあえる世の中になればいいな”と考えています。今の世の中は、強いものに歯向かうと、叩かれたり干されたりするのが当たり前。個が潰されてしまうんです。わかりやすい例でいうと、日本社会における外国人の立場は弱くなりがちだし、LGBTQの方たちは、“存在を認めてもらわないといけない”ということ自体がものすごくおかしなこと。つくづく、どうして人間は相手の立場に立って物事を考えたり理解したりしようともせず、戦争ばかりしているのかなと思います。人類よりずっと昔から地球に存在している動物たちがいるということは、争いなんかしなくても生存し続けられるということなんだから、奪い合うことなく、環境も守っていけたらいいのに」

【希望を運ぶ】
【Affection】

大きなクジラに平和への願いを託している

――表情豊かなクジラたちのなかでも特に、カラフルな色遣いの子たちには、観ているこちらまで心が癒されます。

松崎「“大きなクジラが地球のあらゆる生き物たちを見守っている”みたいなイメージを持って描いているからかもしれません。『希望を運ぶ』には、白鯨のやさしい眼差しによって、みんなが平和に生きていけたらいいなという願いを込めています。『Affection』は“母の愛”のようなあたたかな愛情。この絵は、『明石家さんま画廊』で取り上げてもらったことがあります」

【夜間飛行】

――『夜間飛行』は打って変わって、静謐なイメージです。

松崎「社会のなかで傷ついている人やマイノリティのことを考えたとき、ひとりぼっちで傷つきながらも、健気に生きているクジラが浮かんできました。包帯を巻いて夜の街を飛んでいるクジラも、共生や平和な世界を願っています」

【Voyage】

――『Voyage』は背景とクジラの描き分けが印象的です。

松崎「自分の心の声を大事にしたいという意味を込めて、内面世界への旅(Voyage)と名付けました。これを描いたのは2年くらい前で、コロナで世界が大変なときに、自分はなぜ絵を描き続けているのだろうか? とそれまで以上に自分の内面に向き合い、自分の絵のコンセプトを考えるようになったんです。その時期はきっと僕だけじゃなく、多くの人が自分を見つめ直したと思うし、自分らしく生きられていないことや生きづらさを実感した人も多いと思います。その結果、声を上げることができた人もできていない人もいるかもしれないけど、自分や大切な人の生活を守るためにも、声を上げるべきときには上げていってほしいなと思っています」

――最後に、今後の展望について教えてください。

松崎「コロナ禍にいろいろ考えることがあってここ2年程は活動をセーブ気味にしていましたが、これからもずっと作品は描き続けていきたいです。これまで、駅やオフィスに壁画を描かせてもらう機会にも恵まれてきましたが、今後は画風を活かして、小児科や幼稚園の壁画なども描かせてもらえたらうれしいです」

▶松崎大輔さん
松崎大輔(まつざき だいすけ)
Instagram:https://www.instagram.com/daisukematsuzaki326/
Webサイト:https://daisukematsuzaki.wixsite.com/artist
様々な職業、海外生活、長い自己探求の期間を経て、37歳から画家活動をスタート。生きとし生けるものの「調和・共生」をコンセプトにアート活動を展開。地球は人間だけのものでなく、動物や植物、魚類、様々な生物が共生している場所であり、人間も自分たちのエゴだけで自然を破壊せず、原点回帰して自然から学び直そうという意図を伝えるアート作品を生み出し続けている。

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